業界世界一・イケアの「理念経営」とは
2014年03月24日 公開 2022年06月09日 更新
ビジネスモデルに直結する「企業理念」
イケアの企業理念は現在、
"より快適な毎日を、
より多くの方々に"
というスローガンで表現されている。ホームファニッシング企業らしいフレーズで、事業内容を象徴し、商品ラインアップにもしっかり反映されているといえるだろう。
北欧らしいおしゃれなインテリアアイテムは「より快適な毎日」に結びつき、庶民でも手が届く低価格の商品だからこそ、「より多くの方々」に楽しんでもらえる。
大量生産でコストを下げ、市場より安い価格で販売し、売れ筋商品をさらに値下げして販売量を増やすというビジネスモデルを端的に象徴している。
イケアのコワーカーであれば、だれもがこのスローガンを知っている。自分たちの顧客がどういう相手であり、どういう価値を提供しているかを理解しているのだ。
目標がシンプルでわかりやすく、具体的な言葉で表現されている意味は大きい。
事業理念や目的、行動規範などを内外にアピールする企業は少なくない。ホームページを見ればたいていの企業が、「経営理念・企業理念」「社是・社訓」「行動指針」「ヴィジョン・信条」といったものを掲げていることがわかる。
以前は「技術」「信頼」「誠実」など古風で堅苦しい言葉で表現されることが多かったが、近年は、ソフトでしゃれた言い回しの企業スローガンを使う会社が増えてきた。
よく目にするものとして、次のようなものがある。
・Inspire the Next(日立)
・自然と健康を科学する(ツムラ)
・清潔で美しくすこやかな毎日をめざして(花王)
・地図に残る仕事(大成建設)
・Drive your dream(トヨタ自動車)
・あしたのもと(味の素)
企業のあるべき姿を宣言し、商品やサービスを凝縮したメッセージワードとして社名とともに使われる場合も多い。社外では企業理念を、社内では自分たちのアイデンティティを表現する手段になっている。
ただ、洗練されたフレーズは格好こそいいが、社員1人ひとりが企業スローガンにこめられた意味やその背景を理解しているとは限らない。むしろ、広告宣伝の一環と見なされている場合が多いように思われる。
つまり、企業理念とはあくまで理想であって、達成すべき目標であるとは認識されていない。売上や利益などの具体的な数字のほうが身近ではるかに重視されているだろう。
ヴィジョンに基づく明確な「ビジネス理念」
しかし、イケアではそうではない。企業理念は社内のすみずみに浸透している。それは「より快適な毎日を、より多くの方々に」という「企業理念」に基づく「ビジネス理念」を、次のように明快に示しているからでもあるだろう。
"優れたデザインと機能性を兼ね備えたホームファニッシング製品を幅広く取り揃え、より多くの方々にご購入いただけるようできる限り手頃な価格でご提供すること"
これが、イケアの「ビジネス理念」である。利益をどうやって得るかに関して、はっきりとしたガイドラインが設けられている。
イケアはホームファニッシング企業として、「より快適な毎日」につながる、住環境全般に関わる商品を提供している。取り扱い品目は家具からファブリック類、キッチン用品全般、ステーショナリー、おもちゃ、観葉植物など幅広いが、あくまで「優れたデザインと機能性」を有するアイテムでなければならない。
また、「より多くの方々」に手が届く「できる限り手頃な価格」であることも重要だ。
ホームファニッシング関連のジャンルであっても、イケアが富裕層相手のビジネスに乗り出すことはない。大多数の消費者が買えるリーズナブルな商品の提供がイケアの使命なのだ。「低価格」こそ、競合他社と差別化するために欠かせないポイントだと位置づける。
つまり、低価格でもダサいデザインの商品はNGであり、洗練されたデザインであってもコストが下げられなければ意味がない。機能的でない安かろう・悪かろうの商品も却下される。
・事業ジャンル
・取り扱い商品
・求められる機能
・デザイン
・価格
・ターゲット
それぞれについて明確な指針があることがイケアの強みである。それらの制約をふまえてバランスのよい商品開発をしていくことは、ハードルが高いものの、プレる心配がない。
ターゲットを定め、手頃な商品を世界に発信していく。創業以来、変わらないイケアのビジネス戦略だ。
ヨーロッパでは自前の鉄道を持ち、住宅建設なども手がけているイケアだが、本業を逸脱せず、事業分野を集中させることこそイケア流なのだ。
その戦略は不況にもあまり影響されず、売上高前年度比9.5%増、9カ国で新規店舗オープン、世界で約6億9000万人が来店(数字は2012年度)という数字となって表れている。