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甘え方を知らない人はうつ病になりやすい

和田秀樹(精神科医/国際医療福祉大学大学院教授)

2014年04月07日 公開 2022年12月26日 更新

うつ病は心の弱い人がかかる病だという誤解も存在するが、世界人口の5%もの人がうつ病に罹患していると考えられる。うつ病を予防するには、どんなことに気を付ければよいのか。精神科医の和田秀樹氏が解説する。

※本稿は和田秀樹著『「うつ」だと感じたら他人に甘えなさい』より一部抜粋・編集したものです。

 

「うつ病は心の弱い人がかかる」という誤解

ご承知の通り日本は世界に冠たる長寿国である。2012年の厚生労働省の発表では、男性の平均寿命は79.94歳、女性は86.41歳となって、それぞれ前回調査よりも寿命が延びている。その長寿を、ただ「生存している」だけでいいと思っている人はいないはずだ。

私たちはただ長生きをしたいのではない。健康に、長生きしたいのだ。だからこそ、中高年になると、がぜん健康情報に興味を持つ人が多くなる。もっとも、多くの人が気にしているのは、「ガンにならない食事」や「メタボ対策」などであり、そのような身体の病気以外には、「ボケ防止の生活習慣」のように認知症対策に心を砕くのがせいぜいだ。

だが人生には落とし穴はほかにもある。それが、うつ病である。

一般的に、うつ病はあまり関心を持たれていないようだ。自分には関係ない」と思っている人が実に多いのである。しかし、少し大きな会社なら、「○○さん、うつ病で休職しているらしいよ」と耳にすることも多いと思う。うつ病で通院しているという友人・知人がいる人も少なくないはずだ。

うつ病にかかっている人は決して少なくないにも関わらず、うつ病についての正しい知識が広まっているかというと甚だ心もとない。むしろ、うつ病に関しては、正しい知識よりも大きな誤解が広く蔓延しているように思えてならない。

誤解の典型としては、2009年3月に「学校には、うつ病で休んでいる先生がたくさんいる。国会議員には1人もいない。国会議員は気が弱かったら務まらない」と発言した自民党の笹川尭総務会長(当時)のような見方がある。

もちろんこれはまったくの誤解であり、とんでもない暴言である。うつ病は「気が弱いからかかる」とか、「気合いでなんとかなる」というものではない。誰でもかかる可能性のある、れっきとした病気なのだ。

もちろん政治家だってかかりうる。近年、ガンとの闘病を明らかにしている政治家も出てきたが、私の知る限り、うつ病を公表した日本の国会議員はいない。そのこと自体、うつ病への無理解や間違った思い込みを示しているのではないだろうか。

日本の自殺者の約7割はうつ病にかかっていたという調査データもある。現職中に自殺した国会議員は、主だった人だけでも中川一郎氏(1983年1月)、新井将敬氏(1998年2月)、永岡洋治氏(2005年8月)、松岡利勝氏(2007年5月)、松下忠洋氏(2012年9月)と、決して少なくない。

永岡氏の場合は、前年末からうつ病で通院、投薬治療を受けていたことが明らかにされたが、永岡氏に限らず、直前にうつ病やうつ状態になっていた可能性が高い人は多い。

少し前まで、世界のさまざまな推計で、うつ病は人口の3%がかかるとされていたが、最近、WHOは、「世界人口の5%がうつ病に罹患していると考えられる」と発表した。

また、アメリカ精神医学会の統計によると、男性の2~3%、女性の5~6%がうつ病にかかっており、生涯有病率は男性で5~12%、女性で10~25%になるとしている。

つまり最大で4人に1人、最小でも20人に1人は、人生のどこかの時点で、うつ病にかかる可能性があると、統計的に明らかになっているのである。

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