Voice 2011年5月号書評から
2011年04月15日 公開 2022年08月18日 更新
『一歩先のクラウド戦略』
遠藤 功 監修/大野隆司 著
東洋経済新報社/1,680円(税込)
もはや企業の日常業務を遂行するうえで、ITを避けては通れない時代。ホスティング・コンピュータにアクセスしてどこでも情報を引き出せるクラウド・コンピューティングが主流だ。しかし、過剰にITが浸透することで仕事の手抜きが促進され、「強い現場」が失われてしまうことも事実。本書はその二律背反に挑戦し、企業にとって理想的なクラウドのあり方を提言する。富士通、マイクロソフト、ドリームアーツ、プラスアルファ・コンサルティングのシステムベンダー四社が提供するクラウドサービスを、欧州最大のコンサルティングファームであるローランド・ベルガーが、中立的な立場から精査・選定。実務的であるとともに、ITの「あるべき姿」を感じられる一冊。(T・F)
『経済学的思考のすすめ』
岩田規久男 著
筑摩書房/1,575円(税込)
経済論は、どれを聞いても「正しそう」に聞こえる。逆にいえば、何がインチキかを見抜く力が大切なのだ。本書で著者は「経済学の専門家でない人の思考は、繰り返し起きることやたとえ話から経済を理解する『帰納法』と呼ばれる思考法」だが、これでは真実に近づけない、と喝破する。興味深い分析満載の本書を読めば、「シロウト経済学」に騙されない目を養えること、請け合いである。(T・K)
『慶喜の捨て身』
野口武彦 著
新潮社/777円(税込)
武力討幕を目論む薩長両藩の機先を制するべく、大政奉還という大博打に打って出た最後の将軍・慶喜。だが、その後は形勢を傍観するにとどまり、討幕派にまんまと権力を奪われてしまう。慶喜に欠けていたのは、権謀術数の政治を勝ち抜く胆力であり、当事者としての責任感であった。このあまりに不甲斐ないリーダー像は、そのまま現代日本の政治家に対する批判になっていると思われる。(T・N)
『潜入ルポ 中国の女』
福島香織 著
文藝春秋/1,500円(税込)
中国の一人っ子政策は、男を生まない女性への蔑視と二人目以降の戸籍をもてない「黒孩子」を生み出した。出自や学歴に恵まれない地方出身の女性の多くは、中国全土で約1200万人といわれる売春・水商売の世界に足を踏み入れることになる。
本書は、日本人初の女性北京特派員による現地潜入ルポ。歴史と社会の闇を背負い、「苦界」をさまよう女性の姿がやるせない。(T・S)
『葉隠物語』
安部龍太郎 著
H&I/1,680円(税込)
江戸中期、主君忠誠の風潮が色濃く残る時代に生きた佐賀鍋島藩祖・直茂と初代・勝茂、そして武断な家風を厭い文化人としての道を究めた二代・光茂。この三代の主君と家臣たちの「命を懸けた覚悟ある生きざま」を、光茂が没するまで懸命に仕えた山本常朝はなんとしても伝えたかった――。「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」で知られる『葉隠』誕生に迫った感動の歴史小説。(E・T)
Voice 2011年5月号
3月11日の大震災で亡くなられたみなさまのご冥福をお祈りするとともに、被災されたみなさまに心よりお見舞い申しあげます。それにしても、この苦境において、日本人が示した美徳には特筆すべきものがあった。日本の強さの源泉は、「人の力」にこそある。そのことを信じて、力強く前に進みたい。さらに素晴らしい国・日本をつくりあげるために――。今月の総力特集「甦れ、『強い国・日本』」には、そんな思いを込めました。一方の特集は、「世界経済の『常識』が変わる!」「世界に誇る!『日の丸』宇宙技術」の2本です。存分にご堪能ください。