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レクサス星が丘のやり方―お客様から頼まれない

志賀内泰弘(経営コンサルタント)

2014年09月25日 公開 2023年01月12日 更新

 

「サプライズ」より、「プラスワン」

 ホテルやレストランでは「サプライズ」が持てはやされている。

 誕生日に、頼んでもいない名前の入ったケーキが出てきて、スタッフ全員で「ハッピーバースデイ」を歌ってくれた。

 チェックインしたら、部屋に大好きなミュージシャンの曲が流れていた。

 それは、「感動サービス」として最上級の「おもてなし」として評価されている。しかし、ゼネラルマネージャーの吉田さんは、これにはあまり賛同できないと言う。

 その理由を、こんなエピソードを例に挙げて説明してくれた。

 レクサス星が丘では、納車セレモニーというものを行っている。特別ルームで車検証とキーを手渡し、取扱いの説明をする。花のプレゼントや写真撮影も。以前は、船の進水式のようにノンアルコールのシャンパンを振る舞ったりしていたこともある。

 あるお客様から、明日の納車セレモニーに先だって「朝、一番でお願いできないだろうか」と頼まれた。訊けば、明日はお婆様の誕生日。車を受け取ったら、その足でお婆様を迎えに行き、長野県の昼神温泉まで家族みんなでドライブをして、そちらに宿泊するのだという。

 9時30分に、一番で納車セレモニーを行って、旅行のお見送りをした。その際、ご家族の間で交わされた会話の中に、宿泊する旅館の名前がチラッと聞こえた。なんという偶然か。たまたま吉田さんも、つい最近、その旅館に泊まったことがあるのだ。

 そこで、旅館にこっそりと電話をした。

 「この前、泊まらせていただいた者です。実は、私の勤務先であるレクサス星が丘のお客様が、今晩、そちらにお泊まりになられます。お婆様の誕生日と伺っております。そこで、誕生日ケーキを当方の負担でプレゼントさせていただきたいのですが、そちらでご用意いただくことはできますでしょうか」

 すると、意外な返事が返ってきた。

 毎年、そのお客様は、お婆様の誕生日に合わせて家族旅行に来てくださるお得意様だという。当然。バースデイケーキも用意しているとのこと。

 「それでは、ワインでも」

 と言うと、家族の誰もお酒が飲めないとのこと。ああでもない、こうでもないと相談したあげく、お花をプレゼントすることにした。旅館の配慮で「レクサス星が丘から」というメッセー・ジカードも用意していただけた。

 それだけではあまりにも普通だ。そこで、次の日の朝一番に、お客様の車宛にメールを送った。

 「お婆様、お誕生日おめでとうございます。ご旅行はいかがですか。今日も安全運転でのドライブを心よりお祈りしています」

 レクサスには、メールを音声に変換して読み上げるシステムが搭載されている。なかなか使う機会もなく、また、納車したばかりなのでサプライズになり喜んでいただけた。「ありがとう。嬉しかったです」と、後日お礼の電話をいただいた。

 しかし……と、吉田さんは言う。

 「こういうサプライズは、私たちの本意ではないのです。たまたま、納車セレモニーの前日に、お婆様の誕生日であることを知った。たまたま、お客様の宿泊先の旅館に泊まったことがあった。その偶然のおかげで成し得ただけなのです」

 さらに、

 「サプライズは、たしかにお客様に喜んでいただけることでしょう。我々も、時に条件が揃えばサプライズを仕掛けたりもします。でも、もしもサプライズを仕組みとしてしまったらどうでしょうか。誕生日には、何と何をして驚かす。仕組みだから、どのお客様にも同じことをしなければならなくなる。すると感動も薄れます。それよりももっと怖いことがあります。『レクサス星が丘で車を買うと、誕生日にケーキが届くよ』なんて言われるようになったら、もう感動でも何でもありません。お客様はケーキをもらえると、期待してしまう。期待されていたらサプライズにもなりません。それどころか、仕組みにしたら毎年しなければならなくなります。もし途中で止めたら、『去年はもらえたのに』ということで落胆に繋がります」

 吉田さんは、「おもてなし」とは、お客様に「先回り」して何ができるかということだと言う。それは、けっしてサプライズではない。別に、サプライズ自体を否定するわけではない。でも、お客様が涙を流して感激してくださるなんてことは、よほどのことがない限りありえない。その時、吉田さんが、とても大切なことを話し始めた。

 「小さなことですが、こんな譬え話をさせていただきます。お客様から車のボディが傷ついてしまったので修理をしてほしいと頼まれた。仕事に出掛けなければならないので、なんとか30分でできないかとおっしゃる。そこで、テクニカルが他の修理とやりくりして緊急措置を取る。ここでもし、60分もかかってしまったら、お客様は不満を感じる。でも、25分で終わらせたら、『ありがとう』と言われる。お客様の望む30分より、3分でも5分でも早く終わらせることが大切なんです。『お客様から頼まれない』と言いましたが、それと併せて『頼まれた以上のことをする』。すると、『ああ、こんなことまでやってくれたの』と感激してくださる。つまり、プラスα……プラスワンなんです」

 時にはサプライズも企画する。しかし、普段は、サプライズよりもコツコツ、サプライズよりもプラスワンを心掛ける。そうでないと、お客様を喜ばせることは長続きしないと言うのだ。

 「お客様のニーズが100%だとすると、100%をかなえて差し上げるのは当然のことです。こちらは本当は200%を実現したい。でも、正直なところ、それは無理です。でも、101%ならできるはず。その1%の上乗せを積み重ねていったら、いつの日か、お客様から『ありがとう』と言われるかもしれない。ホームランはいらないんです。ヒットをたくさん打つ。それがレクサス星が丘なんです」

 

<書籍紹介>

NO.1トヨタのおもてなし
レクサス星が丘の奇跡

志賀内泰弘 著

接客、メンテナンス、アフターサービスを通しておもてなしに徹し、ゼロから立ち上げ日本一になった「レクサス星が丘」の奇跡を紹介する。

 

<著者紹介>

志賀内泰弘(しがない・やすひろ)

24年間金融機関に勤務後独立し、コラムニスト、経営コンサルタントとして活躍中。講演や研修講師としても引っ張りだこで、サービス業や学校を中心に人材育成の分野での信頼も高い。

「プチ紳士・プチ淑女を探せ!」運動代表(http://www.giveandgive.com)として、思いやりいっぱいの世の中をつくろうと、「いい人」「いい話」を求め、東奔西走中。

中日新聞や目黒雅叙園広報誌の連職をはじめ、著書に『毎日が楽しくなる17の物語』『なぜ、あの人の周りに人が集まるのか?』『翼がくれた心が熱くなるいい話』(以上、PHP研究所)、『みんなで探したちょっといい話』(かんき出版)、『なぜ「そうじ」をすると人生が変わるのか?』(ダイヤモンド社)、『ようこそ感動指定席へ! 言えなかった「ありがとう」』(ごま書房新社)など多数ある。

 

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