決裁もプレゼンもうまくいく たった1つのコツ
2014年11月13日 公開 2022年11月14日 更新
《PHPビジネス新書『外資系とMBAに学んだ「先を読む」会話術』より》
上司が読むのはエグゼクティブ・サマリーだけ
組織の仕事においては、上位者ほど仕事量が多いのが常である。アメリカでは「社内で一番忙しいのは社長だ」とされている。日本のように平社員が残業して会社に残っているが、社長は毎日重役出勤で、定時を待たずして帰宅するということは私の経験上、外資系企業ではまれなケースだった。
マネージャーにしても名刺にも肩書が載るので対外的にも仕事がしやすくなる一方、 私も外資系企業で初めて管理職になり部下を持った時に、仕事の数と種類が激増したことを痛感した。マネージャーの仕事にはヒトとカネの責任を持つことが加わり、仕事においてただでさえやっかいだった人間関係の中に「部下」というカテゴリーが加わる。カネの方では「アプルーバルリミット」と呼ばれる「社内での金額承認枠の上限」が設定される。広告制作の外注費でいえば、担当者時代にはすべて上司の承認のもと発注をしていたところを、100万円までは自分の権限内で発注ができるといった具合である。
したがって部下の分も含めて「パーチェス・オーダー」といわれる取引先への発注書に目を通し認可し、自分の承認金額を超える場合には上司に決裁を求めることになる。
ここで、決裁を求める側にとってはノウハウが必要になる。
組織の大小にかかわらず、社内での承認プロセスは書類でおこなわれることが多いが、上司がすべてに目を通し、真剣に考察してくれるとは限らない。
「部長、先日提出した企画の方、いかがでしょうか?」
「ああ、あれか。ばたばたしていて、まだ最後まで読んでないよ」
こんなやりとりは日常茶飯事だろう。ではどうするか。「まったく、うちの部長はいつだって忙しそうで、決裁を通すのにいつも時間がかかるよなあ」とぼやいているのは、努力不足。上司の様子を見ているのだから、自分が上司だったらどうすれば書類に目を通す可能性が上がるか、考えてみるべきである。
外資系企業ではよく資料の頭に「エグゼクティブ・サマリー」というまとめの1枚をつけ、詳細の資料に関しては次のページに添付する。フィリップモリスで学んだことは「職位が上の忙しいマネージャーは、ここしか読まないのだ」ということだった。
サマリーの目的は「上司の行動を促す」ことにあるので、内容としては「その書類の趣旨」を明確に書き、上司に「いつまでに、何をしてほしいか」を箇条書きでシンプルに、ストレートに書く。その際はA4 1枚にまとめるのが必須で、細かい内容と詳細に関しては「あとで時間があるときに読んでください」というレベルでいいようにしておく。
私はコンサルタントとして、クライアントへの提出書類でも最初にまずサマリーを添付する。相手にストレートに伝えるには、最初にインパクトを置くことが必要だ。
プレゼンも冒頭勝負
プレゼンテーションにおいては、どう伝えればいいのかを考える前に、聴いてもらう「目的を明確にする」ことが重要である。
書類においてはまず1枚のサマリーでそのたね書類自体の目的を明確にしたように、プレゼンテーションでも「これは何のためのプレゼンで、何をもち帰ってもらいたいのか」ということを明確にしてから始めると効果も上がる。
プレゼンテーションの目的は、こちらの要望通りに相手に「決めてもらう」ことである。営業であれば得意先に対して契約をとることだし、社内プレゼンであれば上位者に認可を取るためにおこなう。したがって先ほどのエグゼクティブ・サマリーと同じで、プレゼンの冒頭にも「サマリー」を提示することをおすすめする。
プレゼンのサマリーもシンプルに作るが、書類や書籍と違い短時間で相手をこちらの側に呼び込むことが肝要なので、話す内容の項目、そしてプレゼンそのもの尾目的を1枚のスライドにまとめて、それを「枕」の後に口頭で説明するのが有効だ。
こうすることで聞く方が「何を聞かされて、そのあと何をすべきか」が一目でわかり、それを刷り込まれた上で詳細を聞くので、理解が深まるからだ。
とはいえプレゼンの目的は、契約を獲るなど「自分の希望する結論」にもっていくことにあるので、最初から結論を説明するのが得策とは限らないし、ある程度の演出も必要になる。簡単なところで言えば、「今日のプレゼンで覚えていただきたいことは3つだけですので、漏らさぬようにお聞き下さい」など、コンテンツの予告をして中身に注意を持たせて始めることなども一手である。
「今日は御社の売り上げアップのためにご検討いただきたい新規広告媒体をご提案します。お話としては、スナック菓子業界の動向、インターネット媒体の重要性、そして具体的な事例の順でご説明させていただきます」
といった具合に、最初に「今日のプレゼンテーションの目的と流れ」を説明し、各プロセスで相手が何をすべきかを理解させなければならない。
私はセミナーで講師をする時にもこのような説明を、一枚のスライドに箇条書きにして冒頭に説明する。今日の講座で何を持ち帰り、仕事に戻ったときに何をすべきかを最初に確認したうえで講義に臨んでもらうメリットは大きい。
(りおう・めぐる)
本名:児玉洋典。マーケティングアイズ〔株〕代表取締役。関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科准教授。
静岡大学人文学部経済学科卒業。フィリップモリスなどを経て、インディアナ大学経営大学院にてMBA(経営学修士)を取得。アマゾンジャパン、マスターカードなどでマーケテイング・マネージャーを歴任後、起業。マーケティングアイズ株式会社を設立。収益を好転させる企業向けコンサルティングと、従業員をお客様目線に変える社員研修、経営講座を提供。2013年より関西学院大学で教鞭をとる。
著書に『サボる時間術』『「なぜか売れる」の公式』(以上、日本経済新聞出版社)、『テレビショッピングは、なぜ値段を最後に言うのか?』(ダイヤモンド社)、『最速で結果を出す人の「戦略的」時間術』(PHPビジネス新書)他多数。