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「英語もできないノースキル文系」は、資格で武装すべきか?

大石哲之(ビジネスコンサルタント/作家)

2015年01月05日 公開 2023年01月30日 更新

 

キミはハーバードのMBAがとれるか?

 では、MBAはどうでしょうか? これも同様です。MBAは、勘違いされやすいですが資格ではなく学歴です。Master of Business Administration の略で、経営学修士です。ですから、どこの大学でMBAをとったかということが大事なのです。一流大学から三流大学まで、多種多様な大学でMBAが提供されていますが、このなかでシグナリングになるのは、一流大学のMBAのみです。

 一流大学のMBAとは、ハーバードやスタンフォードといった米国のアイビー・リーグといわれる大学のMBAです。ここに入って卒業してくれば、たとえ大学の学部が中堅私大の文系であっても、相当に学歴をアップデートすることができます。「偏差値50が、ハーバードのMBAに? どうやったの?」という具合です。さきほどのギャル慶應とおなじ理屈です。

 とはいえ、ハーバードのMBAに合格し、卒業するのは並大抵ではありません。というより、東大に入るほうが簡単じゃないでしょうか。慶應や早稲田ならもっともっと簡単。だったら、そっちに入ったほうが楽です。

 あ、議論が、まためぐりめぐっておなじところに戻ってきた気がしますね。そうなんですよ。ですから、ハーバードのMBAに大奮起して合格できる人は、そもそも大学時点で一流大学を出ていますし、じゃあいまから、みなさんがハーバードMBAに合格できるほどの努力をできるかというと、たぶん、そんな能力はないし、それだったら東大に入るほうが簡単ってことだと思います。

 そこで多くの人が、手軽に入れる大学のMBAをとろうとします。つまり偏差値50の大学が提供しているようなMBAコースや、通信制のだれでも入れるMBAコースのことです。

 国内の中堅私大のMBAに2年間通って、いざ転職活動をしようとして、履歴書にそういった中堅MBAの名前を堂々と書いて、たくさんの会社に履歴書を送りますが、一向に反応がない、ということになります。そんな中堅MBAの人の能力を必要とする一流の企業はないからです。欲しいのはハーバードクラスであって、中堅MBAではありません。

 MBAというと、MBAという言葉の魔力にまどわされて、MBAであればどこの大学のものでも価値が一緒だと(学生側は)勘違いしています。しかし、ほんとうは学歴なので、どの大学のMBAかどうかが決定的に重要なのです。

 

企業は「MBAをとっただけ」の人に厳しい

 少し資格論からは離れますが、国内のMBAのカリキュラムにも問題があります。ハーバードの学生が、アントレプレナーシップやリーダーシップや、大企業の経営戦略を学ぶのには意味があります。実際に彼らはそれらの仕事を行う機会があるからです。

 しかし、国内の中堅MBAでも、同様のことを学んでしまいます。グローバルで複数ブランドを傘下に持つコングロマリットのポートフォリオ戦略、みたいなのを学ぶのですが、まったく実感値がなく、ちんぷんかんぷんです。そして、それを学んだところで、グローバルブランドマネジメントがやりたい、といったところで、そんな仕事にはつけません。まさに机上の学問になってしまっています。実際に中堅の社員が仕事で触れるような内容ではなく、あこがれのトップ戦略のような内容をおままごとレベルで学ぶような感じになってしまっています。

 低位~中堅MBAでは、もっと実務的なことを学ぶべきです。

 グローバル人材マネージメントではなく、どこの企業でも発生する労務管理や社会保険、営業管理や生産管理、在庫管理といったもっと手堅い手法を学んだほうがいい。そしてそれに伴うITの知見です。

 ですから、企業からすれば、中堅MBAを卒業した人の評価は、おそろしいほど厳しいです。なにしろ二年間も実務をはなれて勉強しながら、その人がやるであろう中間管理職的な実務ではなく、ハーバードみたいな雲のような話をおままごとレベルでやってきただけなのですから。へたに頭でっかちになって、実務能力はアップしていない。しかも2年もブランクがあり、おまけにMBAをとったからといって給与やポジションへの期待値だけは高い。これではむしろ敬遠したくなります。シグナリング効果どころか、逆のシグナリングを発揮してしまっています。

 MBAは、じつのところをいって、学歴そのものです。ですから、ハーバードやスタンフォードに行けないかぎり、低位のMBAでは、もっと実務的なことを学んでおかないと、たんにお金と時間をドブに捨てただけに終わります。

 少し脱線してしまいました。

 

資格よりも大切な、たった1つのこと

 長くなりましたが、結局「ノースキルの文系学生」は、資格についてはどうすればいいのでしょうか?

 能力があるのに発揮してこなかった人は、在学中に(あくまで在学中に)弁護士や公認会計士を取得して一発逆転をねらってください。そうでない人は、いまさらですので、資格は頭から外しましょう。

 みなさんにとって大事なのは、学歴の代わりになるようなものではなく、もっともっと実用的な経験です。中途採用の言葉でいえば、実務経験です。

 ITアナリストの資格を持っている人より、実際にウェブサイトを立ち上げて全部を運営してきてプログラムも書けます、というほうが役に立ちます。IT資格など1つも持っていなくても、実務能力で証明すればいいのです。

 いわゆる偏差値50程度の資格は、持っていてもいなくても関係なく、実際にそれができるかが大事です。カラーコーディネイターの資格を持っていても価値はゼロですが、実際にカラーコーディネイトの仕事を学生時代に受注して、売上が何百万かあったら違います。カラーコーディネイターの資格なんて持っていませんが、その仕事はできますし、あれはいつでもとれますよと、いい放っておけるくらいでいいのです。

 中堅私大のノースキル学生が、東大に入りなおしたり、在学中に司法試験に合格したり、ハーバードのMBAに進学することは極めてまれです。ですが、中堅私大のノースキル学生がウェブサイトをつくったり、ECサイトを始めたら儲かったり、カラーコーディネイトをしたり、実際に社会とかかわりのあることで成果をあげている例は山ほどあります。

 みなさんの方向性は、資格やMBAというフィールドで、もう一度大学受験のときのような偏差値競争をやり直すことではありません。ましてや、就職活動偏差値みたいなものを念頭において、偏差値上位の企業に合格しようと考え、失敗した大学受験の教訓をなに1つ思い出さないまま、活動に邁進することでもないと思います。

 具体的にどうすればいいかはほかの章で書いていますが、資格に答えがないことはたしかです。長々と書きましたが、それが結論です。

 

著者紹介

大石哲之(おおいし・てつゆき)

作家、投資家

1975年生まれ。慶應義塾大学卒業後、外資系コンサルティングファーム、インターネットスタートアップ・エグゼクティブサーチファームの創業などを経て、現在は海外に拠点を移し、投資家としてプライベートな活動を行っている。著書に『3分でわかるロジカル・シンキングの基本』(日本実業出版社)、『過去問で鍛える地頭力』(東洋経済新報社)など20冊以上。

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