〔人間力を高める〕経営者は本質を見抜き、人を動かす力を
2015年01月26日 公開 2024年12月16日 更新
《『PHP松下幸之助塾』2015年1・2月号Vol.21より》
経験と信頼は当たり前。経営者は本質を見抜き、人を動かす力を
「ダントツ経営」でV字回復を実現し、世界の建機業界を牽引するグローバル企業へと変貌を遂げたコマツ。その原動力となったのは、組織と業務の好循環づくりに取り組んだ改革だった。「結果を出す組織」をつくり上げるために、社員と経営者が重視すべきものは何か。当時、トップとして行動様式「コマツウェイ」を定め、飛躍へと導いた坂根正弘相談役に、組織づくりの観点から人間力の本質を語っていただいた。
<取材・構成:加藤貴之/写真撮影:長谷川博一>
経営者は外部からも評価される
自分に人間力があるかどうかは、自分自身では分からないものだ。「私は人間力がある」と思っていても、他人はそのように評価していないかもしれない。反対に、自分では気がつかない点を他人が高く評価してくれていることもあるだろう。人間力は、他人の評価によって決まるものである。
一般的に、経営者と社員では評価されるときの基準が異なっている。だから、「経営者の人間力」と「社員の人間力」は違うということを前提に考えなければならない。
社員の場合は、自分を評価してくれるのは、主として社内の人たちだ。上司、あるいは同僚や部下が見て、「この人はどんな人物か」ということが判断される。入社したてのころは、実績がまだないから、個人的な信頼感や人柄の要素が大きいかもしれない。社内で経験を重ねていくうちに、「彼にこれをやらせると抜群だ」とか「言ったことは必ず実行する人間だ」などと評価されて信頼が高まっていく。
コマツでは、「サクセションプラン」(後継者育成プラン)というものを導入し、役員や主要部署の部長、工場長などが「自分の次」「自分の次の次」の後任者のリストを提出して社長と意見交換をしている。「自分の次」は直属の部下を挙げることが多いが、「次の次」の候補者は、部門を超えて同一の人間の名前が挙がることも多い。社内にはどの部門の上司からも信頼されている人物がいて、彼らは仕事の能力だけでなく、人間性の部分で社内から評価され、信頼されている。それが、一般社員の人間力と言えるだろう。
一方、経営者の場合は、社内の評価に加えて、外部からどんな評価を受けるかが重要になる。世間が見る「経営者の人間力」とは、会社の業績次第で変わる。経営者個人がどれだけ能力や魅力を持っていても、会社の業績がついてこなければ、外部の人からは評価されない。結果を出していない経営者は、人間力があるとは見てもらえない。つまり、経営者の人間力とは、結果が伴わなければならないものである。
結果を出すためには、「見る」「聞く」「語る」「実行する」のバランスが重要となる。評論家であれば、「実行」は必要ないが、経営者にとっては「実行」が不可欠だ。しかしながら、経営者は自分が実行するわけではなく、部下に実行してもらうのが仕事である。そうすると、部下に動いてもらうための「語る力」が重要になる。
トップが指示を出し、「言われたとおりに実行したらいい結果が出た」という経験を積むと、部下たちは自信を持ち、いっそうやる気が出てくる。そして、指示されなくても自分で物事を考え始める。そのような好循環をつくり出すことができる経営者が、人間力のある経営者と言えるだろう。
経営者としての人間力は、一朝一夕に身につくものではない。若いころからの1つひとつの積み上げである。まずは、社員としての人間力を高めていくことが大切だ。
☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。
<掲載誌紹介>
2015年1・2月号Vol.21
2015年1・2月号の特集は「人間力を高める」。コマツ相談役・坂根正弘氏、経営共創基盤CEO・冨山和彦氏、ヒロボー社長・松坂晃太郎氏ほかの皆様に登場いただきます。また、[特別対談]としてお届けする、トヨタ自動車社長・豊田章男氏と伊那食品工業会長・塚越寛氏の「『年輪経営』談義」では、認め合う2人がめざす“いい会社”像をご紹介しています。ノーベル賞受賞記念「青色発光ダイオードの開発者・赤崎勇――松下幸之助との思い出」も読みどころです。