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真贋の眼を養う努力を~鍵山秀三郎

『衆知』編集部

2016年11月28日 公開 2023年01月19日 更新

好都合が正しいのではない

不幸せになるという話から始めました。それはみんなが幸せになりたいと思いながら、確実にそうならない選択をしているからです。その根本的な間違いはどこにあるかというと、幸せとは自分にとって好都合を選ぶことだ、とカン違いしていることです。好都合と幸せはイコールではありません。

好都合と不都合とがあったとき、重要なのは好都合が正しく、不都合は正しくないと決めつけないことです。そもそも、本質的にどうあらねばならないのかという判断ができないから間違うのです。ときに不都合だけれども正しいことがあるものです。

こういう話になると、また文部科学省が問題だという例を出さざるをえなくなります。なぜなら文部科学省こそ、不都合だけれども正しいことに目を向けない機関の典型だと思いますので。学校の先生方が生徒に向き合わずにどれだけムダな仕事をしているかをご存じでしょうか。

先生方が夜遅くまで仕事をしているのは、みんな文部科学省や教育委員会が報告を求めるからです。どこかの学校で、「私が責任を持つからいっさい報告をしなくていい」と言った気骨のある校長先生がいたそうですが、きわめてまれだとか。

とかく多くの学校ではいじめの問題が表面化したときなど、組織を守ろうとしておかしな対応になってしまいます。

生徒の自死という痛ましい事件が起きたあと、「調べてみたけれど、そういう事実はなかった」と、まず言います。それで批判を受けた末、「よく調べてみたら、それらしきことはありました」と言わざるをえなくなる。年若い生徒が尋常でない死に方を選んでしまったという事実から考えなければいけないのに、組織としての体面か何か事情は分かりませんが、自分の責任から全部逃避する傾向にあります。

そして文部科学省が何をやっているかというと、いじめの種類をひたすら分析している。もっともらしく、去年に起こったいじめのデータを、10カ月後に発表しているわけです。確かに18万何千件あったという事実を把握することも大切でしょう。しかしそれは10カ月前の数字です。そのあいだにだって次のいじめが起きているはずでしょう。いじめを少しでも減らすために何ができるかを真剣に考え、手を打っているのかどうか。

こうした疑問を募らせると、またいつもの、文部科学省は要らないのではないかという持論に落ち着いてしまうのです。アメリカには文部科学省はないのです。

とにかく、私たちは大切なことを見極められるようにしなければなりません。真贋の眼を養う努力を怠るようでは、日本と日本人にとってよい未来の姿は描けないと思うのです。

著者紹介

鍵山秀三郎(かぎやま ・ひでさぶろう)

NPO法人「日本を美しくする会」相談役

1933年東京生まれ。’52年疎開先の岐阜県立東濃高等学校卒業。1953年デトロイト商会入社。1961年ローヤルを創業し社長に就任。1997年社名をイエローハットに変更。相談役を経て、現在はNPO法人「日本を美しくする会」相談役。
著書に『掃除道』『鍵山秀三郎「一日一話」』(ともにPHP研究所)など多数がある。

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