Voice7月号書評から
2011年06月17日 公開 2022年09月08日 更新
『日本人の誇り』
藤原正彦 著
文藝春秋/819円(税込)
イギリスの歴史をひもときながらアメリカ独立の必要性を熱く訴えたトマス・ペインの『コモンセンス』がベストセラーになったことが歴史を大きく動かした、とはよくいわれることである。日本戦後史においては、本書がベストセラーになった2011年が、大きな節目として語られるようになるのではないか。「あの戦争とは何だったのか」。敗戦後、日本人が封印してきた問いへの答えを、真正面から、かつ著者一流の洒脱な筆運びで紡ぎ出していく。
日本人の「大殊勲」とは何か。現在、当たり前なことが、戦前にはけっしてそうではなかったことに触れながら、それを解き明かしていく流れの美しさ! いま日本人が身に付けるべき「常識」がここにある。(T・K)
『国家破局カウントダウン』
上野泰也 著
朝日新聞出版/1,680円(税込)
「日本には金融資産が豊富にある」「国債を日銀が引き受ければよい」「まだムダを削れる」――こうした財政再建論が世間で多く交わされるなか、本書はこう警鐘を鳴らす。「余命はあと5年」だ、と。
とくに著者が警戒するのは円安である。昔から日本では円安歓迎論が根強いが、今後は円安こそが日本を破滅的事態に陥らせるというのだ。人気エコノミストの緊急提言に耳を傾けたい。(E・T)
『最強国の条件』
エイミー・チュア 著/徳川家広 訳
講談社/2,940円(税込)
イェール大学ロースクール教授が、古代ローマや唐など、世界帝国の歴史を検証し、経済力や軍事力で圧倒的に優位に立つ「最強国」の条件を探る。キーワードは、寛容さ。人種・宗教・文化を問わず、世界中から人材を集めた国家だけが、持続的な覇権を確立した。では、いまのアメリカや中国はどうか?著者のテーゼに従えば、今後両国が必ずしも「最強国」でいられる保証はない。(T・N)
『マイケル・ジャクソン 死の真相』
大野和基 著
双葉社/1,575円(税込)
2009年に50歳の若さで永眠したマイケル・ジャクソン。しかし、希代のパフォーマーの「死の真相」は、いまだ闇のなかだ。
マイケルの父親や弁護士など、徹底的な取材の先に本書が明らかにするのは、「大いなる疑惑」である。マイケル好きならずとも、アメリカのショービジネスが抱える暗部がいかに恐ろしいか、そのことに驚かない読者はいないだろう。(T・F)
『偉大なる、しゅららぼん』
万城目 学 著
集英社/1,699円(税込)
代々特別な力を継承する日出一族のしきたりで、高校入学とともに琵琶湖畔の街・石走にやってきた日出涼介。本心では力の消失を願う彼の前に、特別な力をもつ別の一族・棗家が出現。平穏なはずの高校生活は一転、両家の存続をかけた争いへと向かう。
架空の城下町を舞台にした本作は、独特の奇天烈センスそのままに学園青春物語となった。登場人物のアクの強さも魅力的な傑作だ。(M・T)
Voice 2011年7月号
「強い国・日本」を再建するためには、退陣が決まった菅政権の"失敗の本質"を、構造的に解き明かす必要がある。福島原発に関する危機管理体制の驚くべき稚拙さ、官僚を怒鳴るだけの「政治主導」、被災地の復興ビジョンも語らず、経済を立て直す時期に「増税」を狙う愚昧......なぜ菅政権は何をやってもうまくいかなかったのか。総力特集では、いま日本に必要な真のリーダーシップ、そしてあるべき政策に迫ります。もう1本の特集では、「3.11後の日米関係」を多角的に考察。今月号も、読み応えある論考が満載です!