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そのPPM・プロダクトポートフォリオマネジメントの使い方、間違っています!

堀公俊(組織コンサルタント)

2016年04月14日 公開 2016年04月19日 更新

何の病気に効く薬なのか?

A君は、分析を誤ったのではありません。使いどころを間違えたのです。

そもそもPPMは、売上高○○兆円といった複合事業体(コングロマリット)を前提に考え出されたものです。独立した事業を複数営んでいる巨大企業で、最適な投資配分を検討するためのフレームワークです。

そのため、事業同士のシナジー効果や見えない付加価値は、直接的には扱いません。事業規模の小さい企業で、無理に事業を分けて当てはめても、適切な答えが得られるとは限りません。

たとえば、簡単に解雇のできない日本企業では、下手に撤退するよりも、赤字でも余剰人材を活用するほうが得な場合が少なくありません。収益の低い事業であっても、ブランドイメージや従業員の士気を支えていることもあります。今、問題児だからといって早期に撤退すると、将来の芽を摘むことになりかねません。

それに、規模の小さい会社では、4象限に綺麗に事業や商品が分かれず、真ん中あたりで団子状態になりがちです。他にも、4つの領域の境界線が曖昧である、シェアだけではなく利益も加味しないといけないのではないか、シェアが大きいほど儲かるとは限らないのではないか、という批判もあります。そもそも、現在のデータで将来が予想できるのか、という根源的な疑問もあります。

土台、アメリカの巨大企業に対する分析手法を、事業の切り分けが難しい日本の中堅メーカーに当てはめることに無理があります。やったとしても、あくまでも判断材料の一つを提供するものに過ぎない、と考えるべきでしょう。

 

前提を間違えるととんでもないことに

このようにすべてのフレームワークには、それが生まれた経緯や背景、すなわち前提があります。残念ながら、安直なフレームワーク本(私も結構書いていますが……)を見ても書かれておらず、最終的には原著に当たらないと分かりません。

さらにやっかいなのが、当たり前過ぎて原著にすら書いていない前提です。それは、フレームワークを生み出した国(多くはアメリカ)と日本とのビジネス習慣や文化の違いです。

一例を挙げると、アメリカでは社員はコストであり、利益のためにリストラすることを厭いません。ところが、日本では社員は家族であり、痛みをみんなで分かち合おうとします。株主利益を最優先に考える個人主義の国と、社員やお得意様を大切にする集団主義の国では考え方がまるで違います。

もっと言えば、戦略、組織、ビジネス、マネジメント、リーダーシップといった言葉の意味すら、民族や企業の文化によって微妙な違いがあります。それらを頭に入れてフレームワークを勉強しないと、A君のようなとんでもない間違いをやらかす恐れがあるのです。

 

使用上の注意をよくお読みください

失敗事例を見てきましたが、どのような印象をお受けになったでしょうか。中には、「フレームワークを使うのは案外難しいんだ」「ちょっと私には無理かな」と敬遠気味になった方がいらっしゃるかもしれません。決してそんなことはありません。第一、もはや使わずに済ませられる時代ではありません。

要は、フレームワークを正しく理解して使えばよいだけの話。「使用上の注意」を読まずに飛びつくからそうなるのです。

フレームワークは、一振りすればたちどころにどんな病も治す「魔法の杖」ではありません。健康になりたければ、当たり前のことを当たり前にするしかなく、それが失敗しないための唯一の方法です。

フレームワークを習得するとは、単にフレームワークをたくさん覚えることではありません。フレームワークを使いこなす技術やノウハウを培うことです。そこを間違えないようにしましょう。

著者紹介

堀公俊(ほり・きみとし)

組織コンサルタント、日本ファシリテーション協会フェロー

堀公俊事務所代表、組織コンサルタント、日本ファシリテーション協会フェロー。1960年、神戸生まれ。大阪大学大学院工学研究科修了。大手精密機器メーカーにて経営企画やマーケテイングに従事した後、1995年より組織開発、教育、まちづくり、市民活動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。2003年に有志と共に「日本ファシリテーション協会」を設立し、初代会長に就任。関西大学や法政大学で非常勤講師を務める。現在は、講演や執筆活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に尽力している。主な著書に、『ファシリテーション入門』『ワークショップ入門』(以上・日本経済新開出版社)『「ホンネ」を引き出す質問力』『今すぐできる! ファシリテーション」(以上、PHP研究所)などがある。

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