飛騨高山に、世界も驚くパン屋が生まれた日
2016年08月10日 公開 2016年08月15日 更新
待ちに待ったオープン、最初のお客様
パンの宅配業は、予想以上の反響を得て、トラン・ブルーのパンは少しずつ定着していきました。それを実感できたのは、1989年9月15日。開店の日のことでした。
忘れもしません。その日は店の前から、長い列ができました。列は100メートルほどもあったでしょうか。今思えば、「トラン・ブルーの知名度を上げよう」と、オープンを告知するチラシで少々あおりすぎたのかもしれません。
最初のお客様はどんな方だろう。はやる気持ちを抑えつつ、ドアを開けました。目に飛び込んできたのは予想外のお客様。小学3、4年生と思われる女の子の3人組でした。
祝日で学校はお休み。近所に住む子たちが新しいパン屋さんをのぞいてみようと示し合わせたのか、仲良く開店を待っていてくれたのです。「記念すべき最初のお客様は、お子さんだ!」、温かい気持ちになりました。
「この子たちが大人になったときにも、ちゃんとトラン・ブルーはあるだろうか? 絶対にこの店があるようにしないといけないな」
お客様が店内に次々と入ってこられる様子を見ながら、そんなことを考えていました。女の子、行列、店の雰囲気……開店の日の光景は今でもはっきり覚えています。最初のお客様が小さな女の子だったことで、「店を続けなければならない」という気持ちがより強くなったような気がします。
開店と同時に、店内は人がいっぱいで身動きの取れない状態になりました。「初日からこんなにたくさんのお客様が来てくださってうれしい!」という気持ちに、どっぷり浸ることはできませんでした。むしろ、プレッシャーのほうが大きかった。「開店当日にわざわざ来てくださったこの人たちを裏切ることは、許されない」と思いました。
1時間半ですべての商品が売り切れたので、いったん店を閉め、パンを焼いて3時間後にまた店を開いて売って……。3日間徹夜しました。ついに疲れ果てて、4日目は店を休みました。
今いるスタッフの中で開店の日のことを知るのは私と妻だけです。当時の気持ち、お客様を裏切れないという気持ちは、スタッフにも伝えています。