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OFFは電子書籍で名作を!

『歴史街道』編集部

2011年08月27日 公開 2024年12月16日 更新

子供たちの生き方の手本を示せる小説を



 - ところでなぜ、時代ものを書こうと思われたのですか?

山本  10代の頃から作家になりたくで、その目標に到達するために、20代は業界誌などで原稿を書く仕事をしてきました。30代には、現代小説を書いては新人賞に応募していたのですが、一次審査にも通らなかった。40歳になったとき、ペンネームで歴史シミュレーション小説を書いたのです。このときに、ちゃんと取材したら時代ものが書けるかもしれない、と思ったんです。歴史の宝庫である京都に住んでいたことも影響していると思います。そんな祈、鷹狩りについての面白い資料を見つけ、初めて時代ものの短編を書いたのですが、それが編集者の目に留まり、長編を書くことになり、一冊目の本が出ました。

 - 目標とする作家は?

山本  目標としているわけではありませんが、司馬遼太郎は好きです。司馬さんの小説は、読んでいてわくわくします。主人公のキャラクターが立っていますし台詞や語りもうまい。読者の心をとろけさせる技をお持ちなんですね。男の野心を丹念に書いているところにも魅かれます。

 - 司馬さんの作品と、テーマが重なってしまうことはありませんか?

山本  司馬さんが書かれたのは、今から何十年も前で、その間に日本史の研究は、大きく前進しました。いまは、司馬さんがご存じなかった資料もたくさん出てきています。ですので、私にも戦っていける余地があるのではないかと...。同時代に作品を発表する立場になくてよかった(笑)。同じ人物について書いても、資料が違ったり、見方を変えることで、全く違った小説が書けるのが、歴史小説の醍醐味です。

 - 最後に、これからどんな小説を書いていきたいですか?

山本  梶原一騎は漫画「巨人の星」のなかで、主人公の星飛雄馬が、坂本龍馬の「死ぬ時はたとえどぶの中でも前のめりで死にたい」という言葉に感銘を受けたとしています。この言葉は梶原一騎の創作ですが、この一言に影響を受けた子供は多いのではないでしょうか。私もこのように、若い人たちに、生き方の手本を示せるような小説を書いてみたい。
 今回は、利休の美に対する思いの強さを描いたつもりですが、これからも人間の強さを描きたい。自分の内面を見つめ、弱さを吐露する小説もありますが、エキスパートとして活躍している人は、どこかに強さを秘めているんです。そんな人たちに出会って話したときの感動を、読者に伝えていければと思っています。
 それから、これほどの作品にも言えることですが、登場人物が生きた時代のうねりやきしみを描いていきたい。試してみたいことは山ほどあります。

山本兼一(やまもと けんいち)

1956年(昭和31年)、京都市生まれ。同志社大学卒業後、出版社勤務、フリーランスのライターを経て作家になる。1999年、「弾正の鷹」で「小説NON創刊150号記念短編時代小説賞」佳作。2002年、『戦国秘録 白鷹伝』(祥伝社)でデビュー。2004年、『火天の城』(文藝春秋)で第11回松本清張賞を受賞。2005年、同作が第132回直木賞候補に選出される。2008年、『千両花嫁―とびきり屋見立て帖』(文藝春秋)で第139回直木賞候補に、『利休にたずねよ』で第140回直木賞を受賞するなど、いま最も勢いのある時代小説作家として注目されている。
 

【商品紹介】

『 利休にたずねよ 』 
山本兼一 著
四六判上製 税込価格 1,890円(本体価格1,800円)
  文庫判    税込価格 880円(本体価格838円)
電子書籍  税込価格 700円(本体価格667円)
おのれの美学だけで秀吉に対峙し天下一の茶頭に昇り詰めた男。「侘び茶」を完成させ、「茶聖」と崇められている千利休。その艶やかな人生を生み出した恋とは。 その伝説のベールを、思いがけない手法で剥がしていく長編歴史小説。第140回直木賞受賞作。文庫版の解説は作家の宮部みゆき氏。

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