59歳で起業、3年でコインパーキング事業を成長軌道に乗せた経営哲学
2017年02月13日 公開 2023年01月12日 更新
長所を伸ばす経営哲学
以前、当社の社外取締役だった蜂屋良彦・文学博士から、とあるノーベル賞作家とその息子の話を聞いたことがあります。作家の息子は重い障害があり、周囲は「何かしてあげたい」との思いで彼をとても慈しんだそうです。ところが息子本人は、慈しみを受けても一向にうれしそうにしない。そんなある日、作家が重い病気を患ってしまいました。すると障害のある息子が、心から父親をいたわり、生き生きと看病してくれたそうです。
この話が示唆することは何か。人は「誰かのために何かをすることを、生きる喜びとする生物だ」ということです。人間は常に、誰かに必要とされたい、期待されたいと思っています。それに気づき、愛情を持って接しながら期待し続けることが、人を育てることだと思います。
どんな人にとっても、欠点を直すのは至難の業です。欠点や短所ばかりを指摘されると、かえって反発や萎縮が生まれ、成長が止まってしまいます。しかし、期待され、ほめられると、人は変わります。長所が引き出されて伸ばされ、成長するのが楽しくなります。周囲の見る目も変わります。すると、いつの間にか欠点は小さくなり、そのうち消えてなくなってしまうのです。
経営にも同じことが言えます。減らす、なくすといったマイナスの視点ではなく、増やす、伸ばすといったプラスの視点でとらえると、様相がガラリと変わることがあります。かつて私は「敵を作らない生き方」を模索したことがありました。ビジネスの世界では、真剣に仕事をすればするほど、敵ができてしまいます。敵ができると倒さなければならない。そうしないと自分が負け、殺されてしまうからです。しかし考えてみれば、これがすべての争いの元凶となっています。敵を作らなければ、そもそも紛争は起きない。そんな生き方ができないものかと自問自答を繰り返していました。
その末に悟ったのが、「敵を作らない」という発想ではなく、「味方を増やす」という発想でした。敵を作らないようにするのではなく、味方を増やすよう行動していれば、敵と思えた人も、気がつけば味方に変わっていることがあります。いや、本当は最初から敵など存在しないのです。自分が勝手に敵だと決めつけているだけなのです。敵を意識することに精力を注ぐのではなく、味方を増やすため最大の努力をする。これがあらゆる方位の人を幸せにする「十方良し」に結びつくと気づきました。
十方の先にいるのは、会社であれば社員、株主、地主の皆さん、土地の管理会社、資金を貸してくれる金融機関、仕入先の各企業、県や市や国、そして家族、友人、知人などです。すべての人々に喜んでいただける道を探すことが、会社の良さを伸ばす足がかりになると思っています。
目先の利益にこだわるから儲からない
ビジネスを続けていると、がめつい人に出会うことがあります。コインパーキングシステムの値段を半分にしてくれたら買うなど、無茶なことをおっしゃる方もいます。当社はお客様第一主義を掲げているので、お客様の要求には100パーセントお応えしたいと思っています。ですが、採算が合わなくなるほどの無理難題を突きつけられた時は、仕方なくお断りするようにしています。「じゃあ他から買う」と言われれば、「はい。そのようにしてください」と丁重にお答えします。しかし見ていると、たいてい3カ月か半年くらいで、「やっぱりうまくいかなかった」と私のところに戻ってこられるのです。目先の利益を追求すると、結局は損をするという良い例ではないでしょうか。
私にも、会社設立前には、目先の利益を追って失敗した苦い経験があります。100円でできる仕事を200円で売ろうとすると、もっと安い他社へとお客様が流れてしまうのです。目先の儲けに惑わされることなく、110円で売っておけば、お客様に喜んでいただきながら事業も順調に伸びていくのです。
特に値段を決める時は、決して欲張ってはいけないのです。採算ラインを少し上回る程度の儲けで仕事をさせていただく。すると「安くて質がいい」と評判になり、商品やサービスの普及が進みます。それによって新しい発見も生まれ、次の展開へとつながっていきます。「損して得とれ」とは先人の教え。短期の視点ではなく、長い目で見た時に適正な利益となるかどうかを考えることが肝要です。
当社のほかにも、お客様第一主義を社是に掲げる企業はたくさんあります。しかし、これを本当に実行できている企業は少ないのではないでしょうか。自社の利益を優先せざるを得ないという理由で、社是に掲げた理想を忘れてしまうからでしょう。お客様第一主義を念頭に置き、お客様のためになることを実行し続ければ、自社の利益はあとからついてくる。このことに早く気づいてほしいものです。
当社は、あまり数字の目標にこだわらないようにしています。経営計画はもちろん立てますが、何年までに何百億円を達成するといった目標は、大々的には掲げてきませんでした。なぜなら、数字を達成することが私たちの目標ではなく、付加価値を高めるのが目標だからです。付加価値は無限大なので、あえて数字にはしていません。
それに、数字にこだわると、数字を操作してでも業績を良く見せるという不正が生まれやすくなります。人間は弱い存在ですから、「月末までに100件の受注を必ず達成せよ」とうるさく言うと、本当は99件しか受注できていないのに、つい報告書に「100」と書いてしまいたくなるのです。でも、達成できなかったら「残念だったね」と言えば、社員は安心して次の目標に向かってくれるし、嘘も言いません。目先の数字を追わないのは、人を育てる上でも重要なのです。
昔から「足るを知る」とも言われます。不思議なもので、食欲、金銭欲、名誉欲どれを取り上げても、欲しがれば欲しがるほど、満足は遠くへ逃げていきます。誰もが喜ぶ満足経営を達成するために、むさぼらない生き方、経営を行わなければならないと肝に銘じています。