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「寝ても休まらない」を解消!15秒でできる「漸進的筋弛緩法」が不眠に効く

西多昌規(精神科医・医学博士)

2025年11月27日 公開

睡眠時間は確保したはずなのに、十分に眠れた気がしない。ベッドには入るものの、なかなか寝つけない。そんな「睡眠」に関する悩みには、「不安感」が関係しているという。睡眠医学やメンタルヘルスを専門とする精神科医が、睡眠の質を高めるため、夜寝る前に15秒からできるリラクセーション法を紹介する。

※本稿は、西多昌規著『休む技術2』(大和書房)より一部抜粋・編集したものです。

 

「不眠症」というより、「不安症」

コロナ禍を経て、日本人の睡眠時間も多様化しました。リモートワークによって通勤通学時間がなくなり、睡眠時間が増えたという人もいます。一方で、なかなか寝つけず、睡眠時間が減った、あるいは睡眠の質がひどく悪くなったという人がいることも、臨床や調査で浮き彫りとなっています。

こういった人たちは、「不眠症」というより、「不安症」の要素がより強いのではないかという印象をわたし自身はもっています。

考えてみれば、いろいろな変化が押し寄せる時代にさまざまなことを不安に感じずにいられないのはもっともな話です。「会社や店の業績が悪化した」「物価は上がっているのに給料は上がらない」「大規模なリストラがあるかもしれない」など、今だけでなく、これからの経済的な不安や社会変化に伴う不安もあるでしょう。

このような不安が、入眠困難や睡眠の質の低下に影響しているとしても何の不思議もありません。

 

「一睡もできなかった」と苦しむ「睡眠状態誤認」

これを裏付けるように、ここ数年の不眠症のトピックは、「睡眠状態誤認」というものです。

わたしが臨床で経験した「睡眠状態誤認」で記憶に残っているのは、ある50代の女性の入院患者です。入院してからずっと不眠を訴えていたのですが、看護日誌を見ても、毎晩「良眠」と記録されています。わたしが当直のときに確認してみましたが、夜中もいびきをかいて熟睡状態でした。しかし、次の日、本人に訊くと、「一睡もできなかった」と言うのです。「少し眠れた」などのポジ要素はなく、「一睡も」です。

詳しい原因はわかっていないのですが、こうした「睡眠状態誤認」の要因だと現代の睡眠医学で考えられているのは、夜になると脳が過剰に敏感になる「過覚醒(hyperarousal)」です。

おそらくベッドに入ってから覚醒しているわずかな時間の恐怖・不安感が、増幅されて脳にインプットされ、「過覚醒」になる。そして過覚醒の脳が、ますます不安に過敏になるという悪循環が起こっているのです。

そのため、たとえば、実際は3分間ぐらいしか目覚めていなくても、6時間ぐらい眠れなかったという苦しい記憶に変換されてしまうのかもしれません。

この「過覚醒」については、脳科学的にも遺伝子的にも、まだまだわかっていないことがたくさんあります。一説には、HPA軸という、ストレスに反応するホルモンの仕組みが不適切に活性化している可能性が指摘されています。

「過覚醒」の脳をすぐにクールダウンする方法は、なかなかありません。日中の不安を和らげる習慣を地道に行っていくことが、いちばんの対処法でしょう。

 

筋肉を弛緩させ、脳神経系の緊張をほぐす夜のリラクセーション

睡眠は、年齢やその人の置かれた状況によって個人差が大きいものです。たとえば既に長くは眠れなくなっている高齢者が、「8時間寝なければ病気になる」という思い込みをもてば、より不安を強くしてしまうでしょう。

しかし実際には、高齢者の睡眠時間にも大きな個人差があり、何時間睡眠がよいと一概には言いがたくなってきています。

また、睡眠だけが健康を左右するわけではありません。総じて、日中に元気かつ活発に活動できていれば、大きな問題はないことがわかってきています。睡眠に関しては、「短眠でも元気に過ごせる」といった科学的に有害性が実証されている極端な考え方はいけませんが、自分に適した習慣を選択する柔軟性も大切です。

過覚醒対策で夜にできることとしては、リラクセーションがあるでしょう。ヨガやストレッチなどがリラクセーションにあたりますが、不眠によく用いられるのが「漸進的筋弛緩法」です。

これはエドモンド・ジェイコブソン博士が1920年代に考案した方法で、基本的には、身体の筋肉を8割程度の力で5秒間ほど緊張させ、次にそれを一気に脱力させて10秒ほど弛緩させることを繰り返します。
このプロセスによって、筋肉が弛緩するだけでなく、脳神経系の緊張もほぐれてくるというリラクセーション法です。

 

「漸進的筋弛緩法」のやり方

◎基本姿勢と動作
イスに腰かけ、各部位に5秒ほど力を入れて緊張させ、その後ストンと力を抜いて脱力し、その感覚をじっくり味わう

【1】手=両手の手のひらを上に向け、親指を入れてぎゅっと握る→ゆっくり手を広げて降ろし、感覚を味わう
【2】腕=手を握りながら腕を曲げていき、こぶしを肩に近づけて力を入れる→ストンと力を抜いて手を膝へ。脱力感を味わう
【3】背中=2のように両腕を曲げて外(横)へ広げ、肩甲骨をギューッと寄せて力を入れる→力を抜く(上右図)
【4】肩=両肩を上げて耳まで近づけ、首をすぼめるように力を入れる→ストンと力を抜く
【5】首=あごを胸につけるように下げ、うなじを伸ばす→ゆっくりと上げていき、頭を後ろにそらす→前を向き、力を抜く。次に右側へいっぱいに捻り、力を抜く。左も同様に
【6】顔=目、口を閉じ、顔をギューッとすぼめる→ゆっくり力を抜き、口がぽかんと開くまで緩める
【7】腹部=お腹をへこませ、手を当ててその手を押し返すように腹筋に力を入れる→力を抜く
【8】足=イスに深く座って両足をつま先が水平になるように前に伸ばし力を入れる→力を抜く
【9】太もも=つま先を上に曲げて両足を伸ばし、太ももに力を入れる→力を抜く
【10】全身=1~9の順に力を入れ、ゆったりと力を抜く

毎日行うことが大切ですが、不安が強い人は、即効性がないことで逆に不安になってしまうようです。効果がすぐには表れないことを理解したうえで続けましょう。

もちろん、ヨガでもストレッチでも構いません。
繰り返しになりますが、重要なのは、すぐに効かなくても不安に思わず、続けることです。少なくとも2、3ヶ月は行うつもりでやってみることをおすすめします。

著者紹介

西多昌規(にしだ・まさき)

精神科医・医学博士

1996年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学助教、ハーバード大学客員研究員、自治医科大学講師、スタンフォード大学客員講師を経て、早稲田大学スポーツ科学学術院・教授、早稲田大学睡眠研究所・所長。日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクターなど。専門は睡眠医学、メンタルヘルス、アスリートのメンタルケア。

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