養老孟司が語る 京都の魅力、京都の壁
2017年06月19日 公開 2022年07月13日 更新
京都の魅力
京都は長い時代を経て、「鴨川の水のように、世の中は諸行無常である」ということを体験してきた人たちの街です。平安な「情報の時代」も、乱世の「身体の時代」も両方ちゃんと知っています。そして、それは乱世を経験していない江戸(東京)にはない考え方です。
東京はもろい。なぜなら流通が止まったら機能しない都市だからです。東北の震災のすぐあとに計画停電がありました。スーパーやコンビニの棚がからっぽになり、モノがない。それも『方丈記』には書いてあります。「都のものはすべて田舎を源にするものにて」と。
京都の人はしたたかで、どんなものにも付加価値をつけてプロモーションをするのが上手です。諸行無常の世の中で、自分たちが生き残っていくために、身につけてきた知恵なのでしょう。そして、鴨川の流れを見ながら、世の中が移り変わるということを忘れないのが、京都人の本質であると思います。
京都が持っている古都の雰囲気、目には見えない雰囲気を、「空気を読む」「空気を醸し出す」などと言いますが、京都が持っている空気みたいなものが非常に大事だと思います。「あ、これ、京都だな」という土地の雰囲気がある。そういうものは行かなければ感じることができませんし、決して手にできないものです。むしろ手にできないから、空気という言葉になっているのでしょう。
現代は情報の時代ですから、それを写真にしたり、言葉にして伝えようとします。
もちろんある一面は捉えられるのですが、雰囲気全体としては、どうしても捉えがたい。やはりそれは、京都を訪れないとわからないものです。
京都の雰囲気は京都に来てこそわかるもの。だから私も含めて、人は京都に足を運ぶのでしょう。たとえそこに、見えない「京都の壁」があったとしても。そして、その京都の壁は、本来は京都だけではなく、日本の街には必ず存在していた地域共同体の壁なのです。
それを懐かしむか嫌うかは、京都に行って考えてみてください。