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生き方

恋愛に失敗する人の勘違い アドラー心理学から哲学者が考える恋愛論

岸見一郎(哲学者)

2018年05月10日 公開 2022年08月08日 更新

 

嫉妬する人は、相手が自分の愛していないことの証拠を探そうとする

――愛する際に気をつけなければならないことを教えてください。

あなたの愛する人が、同じようにあなたを愛してくれるとは限りません。愛し合っていた相手から、それまでのようには愛されなくなることもあるでしょう。他者はコントロールできません。
しかし、思い通りにコントロールしようと、怒ったり泣いたりする人がいます。

アドラーは、怒りは「人と人を離す感情」で、涙は「協力をかき乱す」といいました。仮にこれらの手口でもって相手にいうことを聞かせられたとしても、相手は心からそうするわけではありません。

相手を支配しようとする人は、嫉妬します。愛を確認するために嫉妬させようとする人もいます。哲学者の三木清は、「嫉妬は悪魔の属性である」といいました。嫉妬は常に陰険である、と。

嫉妬する人は、相手が自分を愛していないことの証拠を探そうとします。愛している人は、嫉妬などしません。
嫉妬とは束縛であり監視です。それは、相手を信じていない人がすることです。相手を縛りつけようとすることは、かえって相手を自分から遠ざけてしまいます。

だからといって、愛を失うことを怖れて、相手の気にいることばかりをしようとするのは愛ではありません。相手から愛されるかどうかは相手が決めることです。

他者はあなたの期待を満たすために生きているわけではないのです。あなたの思うように相手が動かないからといって、腹を立てるのはお門違いです。同じことがあなた自身にもいえて、あなたが誰かの期待を満たさなければならない理由はありません。

――何をしても相手を変えることは出来ないのでしょうか。

相手が変化するということは起こりえます。愛し方によって、結果的に相手が変わるのです。
あなたが変わることで、相手も変わらざるをえない。
変わらないということも当然ありますが、親密な関係であるほど、多くの場合、変わります。これまでと同じようには付き合えなくなるからです。

肝心なのは、相手を変えるために自分を変えるわけではないということです。相手を変えることが目的になってはいけません。

また、自分は変わらないままで相手が変わる(変えられる)ことはありません。たとえば、機嫌や都合が悪くなると声を荒らげるパートナーがいるとします。本当は互いに対等なはずなのに、自分が上だと思いたいのです。

そこであなたが腫れ物に触るようにしたり、下手に出たりすると、相手はその手口が通用すると学び、同じことを繰り返します。
単に「そういうことはやめて」と相手だけを変えようとしても、難しいでしょう。あなたも声を荒らげ返せば、喧嘩になってしまいます。

しかし、あなたが委縮せずごく普通に接したら、相手は虚勢を張るのをやめ、そのようなことをしなくなるかもしれません。

二人の関係に何らかの問題点や困難がある時、それはいわば闇です。闇は物体ではないので、それ自体を取り除くことはできません。
闇を取り除こうとするのではなく、光を当てればいいのです。光を当てれば闇は消えます。

それは、どんなふうに関係を築いていきたいのかという方向に目を向けることであり、愛し方を知ることなのです。

 

※本記事は「PHPスぺシャル」2018年6月号の記事より一部抜粋し編集したものです

著者紹介

岸見一郎(きしみ・いちろう)

哲学者

1956年、京都府生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古典哲学、とくにプラトン哲学)と並行して、89年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学やギリシア哲学の翻訳・執筆・講演活動を行なう。著書に『アドラー心理学入門』(ベスト新書)やベストセラーとなった『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)など多数。

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