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かつてトマトは「赤すぎる」と忌み嫌われていた?

稲垣栄洋(植物学者)

2018年07月14日 公開 2023年01月10日 更新

アジア生まれの「ケチャップ」がトマトの運命を変えた

アメリカ大陸からヨーロッパへと紹介されたトマトは、次第に食用として広まっていくと、今度はイギリスからアメリカへと伝えられた。アメリカ大陸へと逆輸入されたのである。

ヨーロッパでは食用になりつつあるトマトだったが、アメリカでは未だ「毒がある」と忌み嫌われていた。アメリカにトマトが普及したきっかけは、第3代大統領のトーマス・ジェファーソンであると言われている。ヨーロッパでトマトを食べていた彼は、毒草として恐れられていたジャガイモとトマトを人々の前で食べてみせたのである。

こうしてアメリカでも次第に受け入れられていったトマトは、ついに世界の食を変える調味料を生みだした。トマトケチャップである。

ケチャップは、元をたどれば古代中国で作られていた「茄醬(ケツイアプ)」という魚醬だったと言われている。これが東南アジアに伝えられて「ケチャップ」と呼ばれるようになったのである。

アジアでケチャップの味を覚えたヨーロッパ人たちは、やがてさまざまな魚介類やキノコ類、果物を使ってケチャップの味を再現した。こうして作られた調味料がケチャップと呼ばれるようになったのである。

 

アメリカに「里帰り」したトマト

イギリスからアメリカに移住した人々は、食材の限られた新天地でケチャップを作ろうとした。そして、豊富にあるトマトをたっぷりと使ってケチャップを作ったのである。これがトマトケチャップである。

ケチャップは今でも調味料を指す言葉であり、実際にイギリスではマッシュルームを使ったケチャップもある。しかし、現在ではケチャップと言えばトマトケチャップを指すようになり、トマトはケチャップの食材の主役となったのである。

アメリカではフライドポテトやハンバーガー、オムレツなど、ケチャップの食文化が一気に花開いたのである。

こうして主要な作物の座についたトマトは現在、世界で6番目に多く栽培されている植物となっている。上位5つはトウモロコシ、コムギ、イネ、ジャガイモ、ダイズなので、これら主要作物に次ぐ存在として世界中で消費されるようになったのである。

(『世界史を大きく動かした植物』より一部再編集)

著者紹介

稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)

植物学者

1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)など多数。

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