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かつてトマトは「赤すぎる」と忌み嫌われていた?

稲垣栄洋(植物学者)

2018年07月14日 公開 2024年12月16日 更新

ヨーロッパ人に忌み嫌われていたトマト

ピザやパスタ、サラダなどに欠かせない食材である「トマト」だが、なんとヨーロッパに紹介されてから200年以上も食用とされずに放置されていたという。その理由の一つはなんと「赤すぎる」から。では、そんなトマトはなぜ見出され、今や世界中で食べられるようになったのか。その理由を『世界史を大きく動かした植物』の著者である植物学者の稲垣栄洋氏が説く。

 

ジャガイモとトマトの運命の分かれ道

トマトも、ジャガイモと同じく、アンデス山脈周辺を原産地とする作物である。さらに、トマトとジャガイモはどちらもナス科の植物であるという共通点もある。

主要なナス科の植物は、アメリカ大陸を原産地とするものが多い。

作物では、トマトやジャガイモの他、トウガラシやタバコもアメリカ大陸原産のナス科の植物である。また、園芸植物として盛んに栽培されているペチュニアも南米原産のナス科の植物である。

しかし、ジャガイモがアンデスの人々にとって重要な食糧であったのに対して、トマトが食糧として用いられることはなかった。トマトを栽培植物として利用していたのはメキシコのアステカの人々である。

時代を経て、トマトもまた、ジャガイモと同じようにコロンブスのアメリカ大陸発見後にヨーロッパに紹介された。アメリカ大陸でトマトに最初に出合ったヨーロッパ人は、アステカ文明を征服したエルナン・コルテスであると言われている。

こうしてアメリカ大陸で栽培されていたトマトは、16世紀にはヨーロッパに紹介された。しかし、ヨーロッパにおいてもジャガイモが重要な食糧として栽培されたのに対して、トマトは簡単に受け入れられることはなく、長く嫌われ者であった。ヨーロッパでトマトを食べるようになったのは18世紀になってからのことである。驚くべきことに200年もの間、トマトは食用とされなかったのである。

 

有毒植物として扱われたトマト

残念なことにヨーロッパではトマトは毒のある植物と考えられていたという。

トマトはナス科の植物である。ナス科は有毒植物が多い。

ヨーロッパでは「悪魔の草」と呼ばれて恐れられたベラドンナや、魔術に用いられたマンドレイクなどの有毒なナス科の植物がある。トマトは、見た目がこれらのナス科の植物に似ていることから嫌われたのである。

ジャガイモもヨーロッパに紹介されたときには毒草として避けられていたが、ジャガイモが貴重な食糧であると理解した人々の努力によって、次第に栽培が広まっていった。しかし、トマトは、ジャガイモのようにどうしても普及させなければならないほどの重要さは感じられなかったのである。

ジャガイモも芋の緑色の部分や芽、葉には毒があるが、それはソラニンという毒性物質ができるからである。芋も昔はえぐみがあったと考えられているが、食糧として利用されるうちに、えぐみのない芋へと改良されていったと考えられている。

一方、トマトも毒があるのは茎や葉だけで、赤い実に毒はない。しかし、トマト独特の青臭さのようなものは残る。その青臭さも嫌われる理由だったのである。

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「赤すぎた」トマト

著者紹介

稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)

植物学者

1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)など多数。

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