店は生きている
――そもそも清水社長は、寿司の世界ではまったくの素人だったわけですが、なぜ人気店になることができたのですか?
清水 寿司のことをまったく何もわからない中で始めたので、毎日が必死。独学で試行錯誤しながら改良につぐ改良をしていきました。
開業当時の僕は、「店は生きている」ということをよく言っていましたね。寿司という商品そのものはもちろんのこと、コップや皿などの食器や、店のつくり方、接客の仕方まで、「どうしたらよりよくなるか、喜んでもらえるか」をいつも考えていて、日々、改良を重ねていくから、お店はどんどん変化していく。逆に、改良を重ねないと生き残れない、という危機感があったのも事実です。
そもそも根室は流動人口が少ない土地なので、来店されるお客さんに限りがある。そのような限りのあるお客さんに対し、最初は半年に一度だけで来ていたサイクルを、3カ月に一度に増やしてもらい、ゆくゆくは1カ月に一度になるようにしなければ、売り上げを増やすことは難しくなります。
一方で、お客さんは来店回数が増えるにつけ、だんだん飽きてきます。しかし、ほんとうは何かを期待して来ている。ここで店が改良の努力を怠っていると期待を裏切る形になり、結果、お客様の来店ペースは半年に一度に戻ってしまい、売り上げも落ちていくのです。
そうなってはならない。そこでひとりのお客さんをとことん大事にし、親身になって接し、お店を気に入ってもらい、常に期待に応え、来店頻度を増やしてもらうことを徹底していきました。
――お客さんの期待に応えるため、心血を注がれたのですね。
清水 それでも、スナックをやっているときに比べたら、少しは気分が楽でしたよ。スナックでは、お客さんに自分を気に入ってもらえるか、楽しいかですべてが決まる。他に差別化が見えるものがありません。
それに対して回転寿司には寿司という「モノがある」。お客さんに喜んでもらいたいという思いを寿司という形のあるものに表現することができる。
そこで、提供する商品、寿司の種類についても創意工夫を凝らしました。開店後、最初の段階では、仕入れ先から、「回転寿司で扱うネタは冷凍が普通」だと聞いたので、すべて冷凍した食材を使っていました。ただ、しばらくして少しずつ寿司のことがわかってくると、工夫を凝らす余裕が出てきました。
たとえばホタテについて、すくそばの根室の漁港には生のホタテがいくらでもあります。お恥ずかしいことに、これまでプライベートでは生のホタテをいくらでも食べていたのに、回転寿司にそれを使うことを考えてなかった。そこにようやく気付きます。
そして生のホタテを扱うようになるのですが、漁師が10キロぐらい貝殻つきホタテをかごに入れて店に直接持ってくるのです。それを店の裏で貝殻から剝いて、お客さんに出すようにしました。それが新鮮で美味しいと、人気を博すようになります。それから、漁港で取れた生の食材を意識的に使うようになりました。
ここで「花まるの寿司では、素材を大切にしよう」と考えるようになります。冷凍ものが普通になっている回転寿司の世界では、あまりそれは意識されないかもしれませんが、私は「本来の寿司」を目指したくなったのです。そのうえで、私なりの創意工夫を凝らそうとしました。これまで、寿司に使わなかったような素材を商品にしたのです。