取りつかれたように聞いた「稲盛和夫経営講話全集」
――このように、モノづくりやサービスのあり方、経営に対する明確な「考え方」をお持ちの清水社長。それらをどのように培ってこられたのですか?
清水 京セラの創業者で、経営者向け勉強会・盛和塾の塾長でもある稲盛和夫先生の影響がかなり大きいですね。
稲盛塾長のことは、僕が30代のころにご著書『心を高める、経営を伸ばす』や『成功への情熱』(いずれもPHP研究所)などを読んで印象には残っていたのですが、学びを本格化したのは、京セラコミュニケーションシステムから販売されていた「稲盛和夫経営講話全集」全32巻のカセットテープに出会った45歳のころからです。
根室で回転寿司店を開業して3年ぐらい経っていました。カセットテープは16万円でした。当時の僕にはものすごい大金で、思い切って買ったら、もう本当に狂ったように、ずっと聞いていました。稲盛塾長の肉声は圧倒的な説得力を持っていました。真っ暗闇に光が差したような感じを受けましたね。
お店の2階の屋根裏を改造した事務所で、カセットデッキを抱えるような感じで、塾長のカセットを朝9時から夜中の12時、1時までずっと聞きつづけた。トイレに行くのにも、止めるタイミングがつかめず、なかなか行けなかったぐらいです。
取りつかれたような感じになり、日に日に音量が大きくなる。その間、ろくに仕事もしませんでした。1カ月以上、こんなことをしていました。いまの僕なら、とてもじゃないけれど、できないですよ。
――やはり何十回と聞かれると、頭の入り方とか、解釈の仕方は少しずつ変わっていくものなんですか。
清水 稲盛塾長の話を止めて咀嚼していく箇所が増えていくのです。毎日、毎日少しずつ、自分が受け入れるべき重要なメッセージが増えてくるという感覚を持てるようになりました。
また余談ですが、そのように、かじりつくようにして聞いていたものですから、一時期、僕は言われました、「しゃべり方、イントネーションが稲盛さんに似てる」って(笑)。それぐらい染みついていましたね。
このころ、事業自体は少しずつ伸びてはいましたが、店はまだ1軒。「売上があってゼニ足らず」みたいな状況だったと思います。そしてお客さんの期待に応えるため、必死になって仕事をこなし、日々を過ごしていたのです。