5年で電気自動車の量産に成功した「尖ったものづくり」とは
2018年10月22日 公開 2023年10月04日 更新
水平分業で知恵と技術を集め、最先端の“ワクワク”を実現
これからのクルマは、家電と同じように、小さな会社でもアイデアで勝負し、開発できるのではないか――。そのような発想で起業し、設立5年で実現させた新進気鋭の経営者がいる。京都の電気自動車(EV)メーカー・GLMの小間裕康社長だ。従来の自動車産業にみられる企業系列の生産体制ではなく、サプライヤーと幅広く協業する水平分業モデルで、“尖ったものづくり”を可能とした。さらには業界の枠を超え、他産業との連携によって、新しい製品・サービスの提供にも挑む。はたして、若き起業家が目指すこれからのものづくりとは。
取材・文:森末祐二
写真撮影:白岩貞昭
人材派遣業から「ものづくり」へ
小間氏は新進気鋭のベンチャー企業経営者でありながら、いわゆる「押しの強いタイプ」ではない。物腰柔らかく、落ち着いたソフトな語り口調で、とても謙虚な人柄である。しかし一言ひとことに説得力と自信が感じられ、事業への強い情熱があふれている。事業家となったきっかけを本人に尋ねると、意外にも、1995年の阪神淡路大震災後の神戸の街で、ピアノ演奏を始めたことだという。
「ピアノは高校時代から独学で弾き始め、大学生になって人前で演奏するようになりました。震災後の復興途上の神戸はまだ暗い雰囲気でしたが、私がピアノを弾いたり、伴奏をして誰かに歌ってもらったりすると、歌う人も聴いている人も表情が華やいできて、皆さん元気が出てきました。こうやって人を和ませ、楽しませることができるんだなと感じたのです」
あちこちでピアノを弾くうちに、たちまち引く手あまたとなった小間青年。この段階ですでに事業家の片鱗が現れる。演奏者が自分一人では足りないと感じたことから、音楽仲間を集めて「演奏家の人材派遣業」を始めたのである。演奏者の登録は、すぐに100名近くに達したという。こうして小間氏は、学生のうちに事業家となった。
その後、人材派遣業は大きく成長する。好奇心旺盛で特に家電が好きだった小間氏は、どのような人材のニーズがあるのかを探求するうちに、オーディオメーカーが家電量販店に派遣する販売員を必要としていることを知る。登録している演奏家の中には、オーディオに詳しく、販売員に向いている人材もいたため早速派遣すると、こちらも好評を得た。さらに吸収合併で某家電メーカーを退社した優秀な営業社員を雇用し、外資メーカーが日本の家電量販店に進出する際のコーディネートを行ない、年商は約20億円に達した。だが、小間氏は経営者として、どこかもの足りなさを感じていたという。
「経営者として一定の成果を出しはしましたが、経営の基礎的な知識はまだ不十分だと感じていました。そのため、MBAのプログラムが学べる京都大学経営管理大学院に、2009年に入学したのです。ここで学んだことで、私の経営者人生は大きく転換しました」
人材派遣業は信頼できる人物に託し、経営を学ぶことに専念した。より広い視野で学んでいくうちに、元々憧れていた「ものづくり」の世界への関心が高まっていった。
小間氏が注目したのは、家電のデジタル化が新規参入をもたらしたこと。これまで家電メーカーにしかつくれなかった製品が、デジタル技術によって他業種のメーカーにもつくれるようになった。これからはデジタル化で「ものづくり」のハードルが下がり、大資本がなくても何か新しいことに挑戦できるはずだ、と小間氏は考えた。