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社会

パワハラ? 指導? 体育会出身の若者を潰したクラッシャー上司の実例

松崎一葉(筑波大学医学医療系 産業精神医学・宇宙医学グループ教授)

2018年11月21日 公開 2022年02月21日 更新

実例 48歳の課長と入社3年目の若者

48歳のクラッシャーAは、他者への共感性がないに等しい。

仕事はできるのだが、完璧主義という以上の拘りがあって、それを善だと思って疑わず、部下にも強要し、やはりメンタル不全に追いやってしまうタイプだ。

Aの下に配属された社員のほとんどは、モラール(士気)を喪失すると社内で噂されていた。それまでの仕事のやる気が奪われてしまうのだ。

クラッシャーAに潰された部下はたくさんいるが、ここでは明るく元気いっぱいな入社3年目社員がやられた例を取り上げる。

被害者Gは、MARCH(明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)クラスの私大文系学部の出身で、応援団に所属していた体育会系の26歳の男性だ。明朗快活で根性もある。それが評価され、就職人気も高い生活用品メーカーに入社した。

入社1年目から営業職で頭角をあらわした有望株。地方の支社勤務を経験し、2年目の春に本社の営業部に配属となった。それまでなかなか数字の上がらなかった得意先にも、積極果敢に食い込み、いい結果を出して、配属そうそう職場の若手ヒーローになった。

営業部の部長もGに目をつけ、会社でもっとも力を入れている商品を扱う営業2課の戦力として、彼を使うことにした。その営業2課の課長がクラッシャーA。たくさんの部下を潰してきた人間であることは部長もよくわかっていたが、GならAの下でも持てる力を発揮し、ギスギスしている営業2課の空気を換えるのではないか、と賭けてみたそうだ。
 

皆の前での「指導」

課長のAも、評判のGを戦力として欲しがっていた。

直属の上司となったAは、さっそくGに難攻不落と言われる得意先を担当させた。パワーのある競争相手が多く、かつビジネスとして大口なので、代々経験豊かな中堅のできる社員が担当してきた得意先である。

いくら若手ヒーローだからとはいえ、ハードルが高い。係長は「まだGには無理ですよ」「持たせるなら他を経験させてからにしませんか」と意見したが、課長Aは「彼にやらせたい」「俺の中では成功が見えている」と譲らなかった。

Gは楽観的な性格の持ち主であり、周囲の心配を気にするでもなく、「やりますよ。ハードルが高いほど自分は燃える人間っすから」と目を輝かせていた。

そして、担当となって数カ月で、本当にハードルを飛び越え始めた。元気で明るく粘り強い営業を繰り返し、クライアント側の担当者のお気に入りになったのだ。

売り上げの数字もどんどん上がり、順風満帆。Gの評判はますます上昇し、この配属を考えた営業部長もまんざらではない様子だった。課長のAは黙ってその様子を見ていた。

ところが、である。しばらくして、順調だった受注がいきなり減り始めた。理由は明白だった。年度替わりでクライアント側の担当者が替わり、これまでのGの営業方法が通用しなくなったのだ。新しい担当者は、情ではなくクールなビジネスを好むタイプだった。

受注が減り、スランプ気味になったGは、他の得意先でも持ち前の営業力をうまく発揮できなくなり、少し落ち込んでいた。とはいえ、Gの売り上げのトータルは3年目の営業マンとしては十分に立派なものだった。

だが、それまでGを自由にさせていた課長Aが、課内の定例ミーティング中、いきなり皆の前で彼に「指導」をした。

やりとりを再現すると、こんな調子であった。

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終わりの見えない、逃げ場を塞ぐ詰問

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