鳩が「平和の象徴」となった理由は「創世記」に由来する
また、《受胎告知》では、しばしば鳩が登場してきた。鳩は聖霊の象徴である。
では、どのように描かれてきたか。ルカによる福音書には聖霊がマリアを覆ったとあるため頭の上に描かれたり、聖霊がイエスを宿すという理由から腹の近くに描かれたりしてきた。
また、聖霊の象徴であると同時に、自由に飛び回れる鳩は天と地を行き来し、その双方を結ぶ ―― すなわち神と人を結ぶことの象徴でもある。
旧約聖書「創世記」におけるノアの方舟の場面にも鳩が出てくる。
大洪水で全滅した大地がその後どうなったのか、その様子を知ろうと考えたノアは鳩を飛ばしてみた。やがて鳩がオリーブの枝を口にくわえて戻ってきたので、大洪水が収まり世界に再び平穏が戻ったとわかった。つまり、鳩は平和の象徴であり、新しい世界が始まろうとするさまも示す。
この逸話によって鳩は平和の象徴となり、そのイメージはいまも根強く残っている。たとえば日本のたばこのピースも、パッケージにはオリーブをくわえた鳩がデザインされている。
なお、ウフィツィ美術館(イタリア・フィレンツェ)に収蔵されているシモーネ・マルティーニ(1287頃−1344年)による《受胎告知》では、ガブリエルはオリーブの枝を手にし、オリーブの葉の冠を頭に乗せているが、それは平和の使者であることを示唆している。