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「気軽な睡眠薬の服用」が「薬物中毒」へ…医師が警告するその危険性

内海聡(Tokyo DD Clinic院長、NPO法人薬害研究センター理事長)

2019年11月09日 公開 2019年11月20日 更新

 

睡眠薬から始まった薬物中毒死

もう1人、紹介するのは、精神医療被害連絡会の発起人、中川聡さんの奥さんのケースだ。彼女の場合、最初に医者にかかってから7年5カ月後、37歳のときに薬物中毒で亡くなった。

彼女が最初にクリニックにかかったきっかけは、不眠と軽い頭痛だった。心療内科のクリニックを訪ね、それらの症状を訴えると、抗不安薬と睡眠薬、鎮痛薬の3種類が処方された。

ところが、わずか4カ月後には、抗うつ薬、抗精神病薬(向精神薬のなかでも強力な薬)も加わり、薬は10種類18錠に。最終的には、1日分として13種類40錠が処方され、飲んでいた。

通院から1年半ほどたつ頃から太り始め、その後も大量の薬を飲み続けるうちに、運動能力がどんどん低下し、足がふらつき、夜間は一人でトイレに行けないのでおむつをして寝るまでになっていたそうだ。

そして、ある朝、中川さんが目覚めると、奥さんは息絶えていた。司法解剖の結果、死因は「薬物中毒死」だった。

 

最初に出されるのが睡眠薬

2人の例は、典型的な"睡眠薬から始まる不幸"のストーリーだ。

睡眠薬がこうした不幸の入り口になっていることが非常に多い。にもかかわらず、睡眠薬は非常に安易に処方されている。そこに、いちばんの問題があると思う。

内科でも整形外科でも皮膚科でもどこでもいい。試しに診察を受けて、

「なんだか最近、眠れないんです」

と医者に言ってみると、

「そうですか、じゃあ、睡眠薬を出しておきますね」

と、あっけないほど簡単に薬を処方してくれるだろう。
私は紆余曲折(うよきょくせつ)があって、いまは精神科で薬漬けになった患者さんの断薬治療を主に行っているため、精神科医と間違われるのだが、もともとは内科医である。

内科医として勤務していた頃を思い返すと、「眠れない」と患者さんに言われれば、みんな、とりあえず睡眠薬を出していた。私自身も、当時はそうだった。

不眠を訴える患者さんへの初回対応を問うあるアンケートでは、回答した医者の7割が初回の診察から睡眠薬を出していた。

さらに、最近では、面倒くさくなったら、すぐに精神科に紹介するのがパターン化している。

前述のAさんの場合がそうだったように、最初に処方した睡眠薬だけでは「まだ眠れない」「また眠れなくなった」と言われれば、面倒くさいので精神科か心療内科に……ということになる。

この流れは、不眠にかぎらず、間違いなく増えている。たとえば、内科でもそうだ。採血をしても、エコー検査をしても、大腸を内視鏡で見ても、何も異常が見つからない。でも、患者さんは症状を訴える。

そうすると、「ストレスでしょう。あなたの場合、精神的な問題ですね」で、すべてを片づけて、精神科に紹介状を書く。

整形外科でも同じ。「腰が痛い」と言われてレントゲンを撮っても、何も異常が見つからないとなると、「あなたは、腰ではなくて、精神的な問題ですね」と言って、精神科の受診を促す。

患者さんは患者さんで、ストレスがいっさいない人なんていないわけだから、「ああそうか、精神的な問題か」と信じて、言われた通りに精神科や心療内科を受診する。

そうやって、いつの間にか精神病患者になっていくのだ。

Aさんの場合、自殺は未遂ですんだ。犯罪にもいたらず、途中で「おかしい」と気づき、そこから引き返すことができた。

といっても、16種類の薬を数年間、毎日飲み続けていたのだから、すぐにやめられたわけではない。減薬にともなう禁断症状に相当苦しめられていた。

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