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生き方

名誉や財産もあるのに…「親離れできない大人」が抱える”人生の苦痛”

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2020年05月22日 公開 2024年12月16日 更新

《他人のキラキラした人生に違和感を感じるが、かと言って自分の人生に自信を持てない。熱く夢を語り、自分の人生が正しいと思いつつも、依然として隣の芝が青いのは親離れに失敗したからだと、加藤諦三氏は著書『親離れできれば生きることは楽になる』で指摘している。

本稿は、刊行以来長きにわたって多くの人に読まれ、そして心の痛みを和らげてきた同書より、生きることに実感が持てない人に向けて語った一説を紹介する》

※本稿は加藤諦三著『親離れできれば生きることは楽になる』より一部抜粋・編集したものです。

 

他人を信用できないのは愛されなかったから

あなたは、だまされている──と言ったら、言いすぎだろうか。なぜなら、あなたは心から他人を信用することができないから。愛された者は信ずることができるからである。

他人を信ずることのできない人間は、心の底では淋しい。そして、その心の底にへばりついている孤独感が、心のスキとなっている。その心のスキにずるい人間はつけいる。

親から愛されず、大人になってずるい人間にふり回されている人は案外多い。もし事実、親が自律性を獲得しているとすれば、あなたは心理的離乳をとげている可能性が強い。

つまり、青春時代の土台はできあがっていると考えてよいだろう。土台のできていない人は、まず土台づくりである。たとえば、親と離れて暮らす。アルバイトをして下宿するのもよい。外国留学を志すのもよい。

また、今までの自分とは違った価値観の持ち主とつきあってみることである。その人は、あなたに安らぎを与えてくれるかも知れない。

 

愛がないと自分を疑う

他人を受容するためには、当の本人に、生きていることに対する満足感がなければならない。われわれは、生きることに基本的に満足している者のそばにいる時、安心感を持つ。

あなたは今まで損得で行動していたから、そのような人に出会うことができなかった。損得で行動しているから、いつまでたっても強烈な自我が形成されてこなかったのである。

損得を先に考えてずるくたちまわって、いろいろのものを得たかも知れないが、心の落ち着きを失ってしまった。この世の中には、名誉や財産を得ながら、そわそわとして落ち着かない人がいる。

求めるべきものは、新しい人たちとの心のふれあいである。心のふれあいを通じて人間は成長していく。心のふれあいこそ、生きることの変わらぬ土台である。

外国留学と言ったのも、文化の違った地にあって解放され、そこで新しい心のふれあいが生まれるかも知れないからである。従って、別に外国に留学する必要もない。必要なのは、とにかく心のふれあいである。

人間はおそらく、心がふれあうことによって変化していくのであろう。小さい頃の親兄弟との心のふれあい、友達とのふれあい、成長してきて異性との心のふれあい、動物の好きな人は動物とのふれあい、さまざまな心のふれあいを通して、人間の情緒は成熟していくのではなかろうか。

10年間同じ屋根の下に住んでいても、心のふれあいを拒否した人は変わらない。親から心理的離乳をとげられていない人は、不幸にして、この心のふれあいの体験がなかった人であろう。

あるように見えながら、実際にはなかった人である。偽相互性という言葉がある。相互性があるようでない。お互いのアイデンティティーを犠牲にしたうえでなりたつ相互性である。

心がふれあうということは、あなたが自分を偽る必要がないということである。自分を偽ることなく相手と関係できる、ということである。心がふれあった人は強い。

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他人の目を退けるために

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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