東京から「脱出」する30代が急増…彼らはどこに引っ越したのか?
2020年10月01日 公開 2022年07月04日 更新
東京から他県に引っ越す30代が増えている
(牧野)オフィスビルの危機とは対照的に、いまコワーキング・スペースが至る所にできています。会社が事業者と契約したら、社員は事業者が複数展開しているコワーキング・スペースのどこでも仕事ができるというシステムですね。
(河合)乗客の減少に頭を抱える電鉄会社でも、コワーキング・スペース事業に乗り出したところもありますね。
(牧野)コロナショックで鉄道会社の売上も影響が出ましたからね。なんとか業績を回復させようとしているのでしょうね。
(河合)こうした動きが広がってくると、都心ではなく、船橋や八王子といった、自宅に近い衛星都市のコワーキング・スペースで仕事をするというスタイルが増えていくでしょう。その予兆は、すでに数字に表れています。
東京都の人口は5月に減少に転じたのですが、転入と転出を調べてみると初めて転出超過となりました。感染リスクを避けるために転入者が大きく減ったことが要因とみられます。
転出が多かったのは30代以上とその子供たちです。若い親と幼子の家族が、東京から離れているということですね。40代以上の多くの年代はコロナショック前から転出超過だったのですが、30代は転入超過だったのが転出超過へと転じたことが特徴でした
では東京都から流出した人たちの多くはどこに行ったのかといえば、「地方」ではないんです。東京都に隣接する神奈川、埼玉、千葉の3県に移っていました。
これはつまり、「テレワークで毎日通勤する必要がなくなったので、家賃が高い都内から離れた。ただ、まだ月に数回は東京の本社に行かなければいけないので、東京への通勤が可能な場所に引っ越した」ということです。
7月も東京都は再び転出超過となりましたし、東京圏としても転出超過です。8月もこの流れは続いています。先にもお話しましたようにコロナ禍は社会構造や人々の価値観を根底から変えるものでありましたので、コロナ後も「脱・都心」の流れは続く可能性があります。
調布、川口に要注目
(牧野)非常に面白いデータですね。そうなると、東京近郊の衛星都市の機能が変わっていくということになりますね。テレワークが当たり前になれば、地元の街で過ごす時間が飛躍的に増えることになります。ならばこれからの家選びは、自分が一日の大半を過ごす街での暮らしの優劣が、カギになってきます。
(河合)通勤がなくなるとすると、1日3時間くらい、地元で過ごす時間が増えますね。衛星都市の中でも、暮らしの豊かさの度合いに優劣が生じてくるでしょうね。
(牧野)その街の住民であることで使える高度情報通信機能やシェアリングエコノミーの有無が、街の評価を左右することになります。そのことに、自治体は早く気づかなければならない。
(河合)ただ、大都市郊外の衛星都市には、すでに高齢化が進んでいる自治体も少なくありません。かつて企業戦士たちが自宅を構えた郊外の住宅街では、80代以上の居住率が非常に高くなると予想されています。今後すべての衛星都市がオフィス街の受け皿の都市になるわけではありません。選別が進むんだと思います。
(牧野)そうした街では、世代ごとに価値観がかなり異なります。多くのニュータウンはいまやオールドタウンになっている。30代の現役ビジネスパーソンを惹きつけることができるかどうかは、疑問です。
(河合)そう考えるとやはり、高齢化が比較的進んでいない街の人気が高まっていくことでしょう。たとえば、東京圏で言うなら調布市(東京都)のようなところが有望ですね。都心へ移動するのも便利です。
(牧野)調布とか、埼玉県川口市ですね。
(河合)そうですね。住民がまだ比較的若く、たまに通勤するにもアクセスが良いところが、まさに職住近接の街になる要素が大きいですね。そうした街にテレワーク向けのサテライトオフィスやシェアオフィスなどが増えたならば、今後も人口増がつづいていくでしょう。