膵臓がんも腰に痛みがでる
その方は、やはり膵臓がんでした。病院で精密検査を受けたところ、すでに進行していて、手術も難しいとのことでした。
残念ながら、膵臓がんの場合、皮膚や白目の部分が黄色くなってきたり、痒かゆみが出たり(これもビリルビンが原因です)、痩せはじめたりといった自覚症状が出てきた時には、すでに進行していることがほとんどなのです。
その方は、黄疸を軽減する治療などの対症療法(症状を和らげるための治療)を受けながら自宅で療養されていましたが、膵臓がんとわかって3カ月後に他界されました。
その経験もあり、今は、整形外科に行っても腰の痛みが治らない方、次の来院の時にもまだ良くなっていないような患者さんには、「一度、整形外科以外の疾患も疑って調べてみたほうがいいですよ」と伝えるようにしています。とくに膵臓のある左側の背中や腰が痛む場合には、早めに消化器内科に紹介するようにしています。
「物言う臓器」と「物言わぬ臓器」
私は、東京都あきる野市で内科・循環器科専門のクリニックを営んでいます。循環器の「循環」とは血液の巡りのこと。そのため、高血圧や脂質異常症、糖尿病、動脈硬化といった生活習慣病や血管の病気を抱えた患者さんが多くいらっしゃいます。
これらの病気の共通点は、初期にはほとんど自覚症状がないということです。自覚症状がないまま進行し、ある時、心筋梗塞や脳卒中といった重大な病気を引き起こすので「サイレントキラー」と呼ばれることもあります。
つまり、血管は物言わぬ臓器なのです。一方、腰は、物言う臓器です(腰は臓器ではありませんが)。腰の痛みは、如実に症状として感じます。
よくある症状だからこそ、「また腰痛か」と見逃されやすいのですが、なかには先に紹介した患者さんのように、腰の痛みが重大な病気のサインだった、ということもあるのです。
この本は、次のような方のためにまとめました。
・整形外科に行ってもなかなか治らない
・マッサージに通っているけど、どうも良くならない
・もう1カ月以上、痛みが続いている
・腰に悪いことをした覚えはないのに、急に腰が痛くなった
・もしかしたら、何らかの病気じゃないか……
これらの心配を抱えて、医療機関や整体・鍼灸などの治療院をはしごしていたり、腰痛がつらくて自宅に引きこもりがちの生活になったりしている「腰痛難民」の方に向けて、内科医の立場から書いた腰痛の本です。
腰痛は、通常は整形外科の対象になります。でも、この本は内科医が書く腰痛の本ですから、整形外科系の病気やトラブルが引き起こす腰の痛みについては深くは触れません。そうではなく、内科系や泌尿器科系、あるいは婦人科系の病気による腰痛を中心にお伝えします。
といっても、「あなたの腰痛は、がんや大動脈瘤、腎臓病といった重大な病気のサインかもしれませんよ!」と脅すつもりはまったくありません。
「もしかしたら、ただの腰痛ではないのでは……」と心配している人が安心できるように、「どういう病気のサインとなることがあるのか」「どういう診療科にかかって、どういう検査を受ければわかるのか」など、具体的な手順も含めてお伝えします。
そして、最後の章では、とくに内科系などの病気が隠れているわけではない、ただの腰痛だとわかったら、どういうふうに腰痛と付き合っていけばいいのか、腰痛をラクにする生活習慣や思考法などをご紹介します。