内科医として毎日、診察を行なっている池谷敏郎氏は、患者さんからよく腰痛の悩みを聞くといいます。本来、整形外科の領域ですが、原因はそればかりではないようです。
整形外科に行っても治らなければ、他の病気も疑ってみることも解決の一つの方法かもしれません。“難民化”している腰痛持ちの人に向けて、内科医の立場から解説します。
※本稿は、池谷敏郎著『腰痛難民』(PHP研究所)から、内容を一部抜粋・編集してお届けします。
内科も外来患者の3人に1人は腰痛で悩んでいる
私のクリニックにいらっしゃる患者さんは生活習慣病や血管の病気を抱えた方が多いのですが、「どうですか? 何か気になることはありますか?」と聞くと、「血圧はいいんだけど、ちょっと腰が……」「血糖値は安定しているんだけれど、腰がなんだか嫌な感じがする」などと、腰の話になることがよくあります。
診察のなかでそのように腰痛の話になったことのある患者さんは、3人に1人ほどいるでしょうか。統計を取っているわけではありませんが、かなり多い印象があります。
とくに年輩の患者さんの場合、「腰が痛くない」方のほうが稀。まったく気にならないという方は、おそらくほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。
ただし、腰痛が高齢者の病気かと言うと、決してそうではありません。少し古い調査ですが、2003年に日本整形外科学会が発表した「腰痛に関する全国調査」では、性別・年代別に腰痛の有病率(腰痛をもっている人の割合)を調べています。
これを見ると、20代、30代でも他の年代と同様に3割前後の人が腰痛もちです。
また、この調査では、腰痛経験者の2、3割が、腰痛を理由に「仕事・学校、家事を休んだ」ことがあると回答しています。厚生労働省の統計を見ても、日本人が悩まされている症状の第1位が腰痛です。以前には、厚生労働省の研究班が全国で2800万人もの人が腰痛を抱えているとの推定結果を公表し、話題になりました(「国民生活基礎調査」2015年)。
2800万人ということは、全国民のざっと4分の1ほど。さらに、6~8割の人は一生のうちに一度は腰痛になる、と言われています。それだけの人が腰痛に悩まされているのですから、私のクリニックにいらっしゃる方の1/3が腰痛もちでもまったく不思議ではありません。
だから、内科医でありながら、患者さんに湿布を処方することもしばしばあります。内科医といえども、腰痛を避けては通れません。内科医も腰痛治療に携わっているとは意外かもしれませんが、それだけ腰痛もちの方は多いのです。
腰の痛みが最初の"サイン"だった
「背中と腰が痛むんです」
高血圧で私のクリニックに通院されていた、50歳の男性の方でした。2カ月ほど前から背中と腰がなんとなく痛むようになり、整形外科に行き、痛み止めと筋肉の緊張を和らげる薬をもらったそうです。
ところが、薬を飲んでもあまり痛みは変わらなかったようで、私のクリニックでの診察中、「(高血圧の)ほかに気になることはありますか?」と尋ねると、ぽろっと「背中と腰が……」と漏らされたのです。
それ以来、外来にいらっしゃった時には「腰のほうはどうですか?」と、腰の具合も尋ねていました。
「今日はちょっと良いかな」「まだちょっと痛いです」
などと返事が返ってきて、どうやらまだ痛みが良くならないようだったので、「次回は血液検査をしましょう」と話をしたのが、最初に腰痛の話を聞いてから2、3度目の診察日だったと記憶しています。
そうして、次の診察を迎えたのですが、診察室に入ってくるやいなや、「なんだか黄色くなっちゃいました」とおっしゃったのです。見ると、患者さんの言葉どおり、肌が黄色くなっていました。その姿を見て、「ああ、背中と腰の痛みは、膵臓がんの痛みだったのか……」と、すぐに気づきました。
膵臓がんは初期にはほとんど自覚症状がありません。ただ、がんが大きくなってくると、ビリルビンという物質が体内にたまり、皮膚や目の白目部分が黄色くなる「黄疸」が起こりやすいのです。
検尿ではビリルビン尿とともに尿糖があり、採血をすると血糖値が悪化していたので、詳細な検査結果のデータを待たず、その日のうちに紹介状(診療情報提供書)を書いて、大きな病院の消化器内科に紹介しました。
膵臓は、インスリンというホルモンを分泌して、血糖値を正常にコントロールする役割をもっています。だから、膵臓にがんができて、膵臓の働きが悪くなると、血糖値の状態も不安定になりやすいのです。