コロナの影響で芸術のあり方、役割も変わってきているのか?
――2015年12月にソウルで開催されたトークイベント「事物の人類学」にて、アンさんは「作家は場をつくり、そのなかで観客が自分の経験と記憶を生かし、意味を組み立てる。それが芸術家としての役割だと気づいたのです」と発言していました。
現在、新型コロナウィルスの影響で世界的に生活様式が変化してきています。この変化にともない、アンさんが考える芸術のあり方、役割も変わってきているのでしょうか? そうであれば、ぜひ教えてください。
【アン】そのトークイベントで、私は「作家は正解を決めて観客を誘導するのではなく、観客が自問しながら答えを探す場を開くようにするべきだ」と語りました。その思いは今も変わっていません。コロナ禍以後、多くの変化を目の当たりにしていますが、その中で私の芸術がどう変わるべきかについては、まだ分かりません。
以前は漠然とグローバルなアートの世界を想定しながら活動をしていましたが、パンデミックで交流が途絶えてからは、私が属する今この場所で意義ある創作をするのが重要だと考えるようになりました。
新型コロナウイルス感染拡大が始まった当初、家に閉じこもるようになった人たちが鍋やフライパンを手にバルコニーに出て即興で音楽を奏で、互いに励まし合う姿が印象的でした。コロナ以後の世界では、観客が能動的に参加するように導く芸術的な想像力と実践が必要だと考えています。
――本書をきっかけに、日本でもアンさんの作品や現代美術に興味を持つ人も多くいると思います。そんな日本の読者に向けてメッセージを。
【アン】アートは、日常を超える美しい魅惑を与え、美術家の秀でた完成とテクニックによって観る人を感動させることが可能です。多くの美術家がそのような作品を作っていますし、私もアートのこうした可能性を否定しません。
しかし、美術家のなかには、自分を省みて、社会を理解するために世に問いかけることが重要だと考える人もいます。私もそのような美術家のひとりと言えるでしょう。今回日本語版が出版された『それぞれのうしろ姿』と同じように、私の美術作品が日本の観客たちにどう読み解かれるのか気になっています。