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生き方

安易な「できない発言」がメンタルを弱くさせる理由

片田智也(産業カウンセラー、キャリアコンサルタント)

2022年07月08日 公開

 

「〇〇できない」というのは十中八九、ウソである

落ちこみや不安、イライラ、クヨクヨ。どんなに不快な感情にもかならず「そう感じるにふさわしい理由」があるもの。その自然な弱さは、環境の変化にうまく対応するよう「行動の修正」を求めています。

メンタルの自然な強さを手に入れるのにもっとも重要なのは行動すること。ですが、「本当はしたいのに」「やろうと思っていても」「理屈でわかっていても」、結局のところ、「〇〇できない」といって行動が止まってしまうということはないでしょうか。

「運動できない」「貯金できない」「ダイエットできない」「家事ができない」など、「やったほうがいいこと」や「やるべきこと」はわかっているのに手をつけられなかったり、始められなかったり。そんなことはありませんか。

どうすれば「わかっているのにできない」を抜けだすことができるのか。最初に理解して欲しいのは、あなたが使っている「〇〇できない」が十中八九、ウソであるということです。

なぜそう言いきれるのか。理由を説明しましょう。日本語というのはとても柔軟な言葉です。「できない」は本来、可能性を否定すること。正しくは「物理的に不可能であること」を示すための言葉です。

でも実際のところは違います。私たちは「したくない」や「めんどうだな」「苦手だ」「しない」など、とても広い範囲で「できない」という言葉を使っています。

英語の場合を考えるとわかりやすいでしょう。たとえば、"I can not cook."という言葉は、たとえば「手をケガしている」のように「物理的に不可能」という意味あいを持っています。

ところが日本語は意味がゆるい。実際、私自身「片田さんは料理するんですか」と聞かれて、「できないんです」と答えることがあります。

でも、厳密にいえば、その言い方はウソです。本当は下手なので「したくない」、もしくは妻に任せたほうが安心なので「しない」と決めている。真に「できない」わけではありません。

ホンネは「したくない」や「しない」、しかしそれを「できない」と言って自覚なくウソをつくことを私は「ニセできない」と呼んでいます。

「運動できない」「貯金できない」「ダイエットできない」「家事ができない」、これらも十中八九、ニセできない。ホンネを隠し、オブラートに包むかのように、私たちは自覚なく「できない」というウソをついています。

そしてこの「無自覚なウソ」があなたのメンタルを弱くさせている原因のひとつでもあるのです。

 

他人の欠点が目につくのは「ニセできない」の副作用

他人の欠点や環境にある悪いものが目についてしかたない、という経験はありませんか。

上司や同僚、夫や妻の欠点が気になったり、会社やご近所のような身のまわりの環境から、政治のあり方にいたるまで、「言ってもしかたがないことと自分でもわかっている」のに、なぜか他人や環境の悪いところが目についてしかたない。

だとしたら、それは「ニセできない」の副作用。いってみればウソをついた代償です。「ニセできない」を多用する最大のリスクは「できない」と言うたび、できない理由や原因のような「悪い何か」が次々と見つかってしまうことです。

これは「できない」という言葉の構造が関係しています。「〇〇できない」という言葉は、それ単体では、あまり使いません。セットで「それができない理由」が必要になります。要は、理由や原因、「悪い何か」を探すことになります。

実際、「禁煙できない」や「ダイエットできない」と訴える人は、「仕事でストレスが溜まるから」など理由や原因について、こちらが尋ねてもいないのに教えてくれるものです。

もし、その「できない」がニセモノで、「したくない」がホンネである場合、彼らにとって「仕事のストレス」は「できない理由」として必要なものになります。

いいかえれば、タバコをやめないため、ダイエットに挑戦しないため、その理由として「仕事のストレス」を必要としているのです。当然、仕事のストレスが減るはずがありません。

「気にしてもしかたないのに」、他人や環境の悪いところがどのぐらいの頻度で、どのぐらい気になるのか。それは「ニセできない」を使った頻度に比例してより大きく、増えていきます。

もしあなたが「気にしなければいいのに」、必要以上に他人や環境の悪いところが目につくというなら、それはおそらく何かを「できない」とウソをついた代償です。

「できない理由や原因」として、あなた自身がそれらにしがみついているということを自覚しなくてはなりません。

「運動できない」「貯金できない」「ダイエットできない」「家事ができない」「早起きできない」「禁煙できない」。あなたは無自覚に「ニセできない」を使っています。そして「できない」と言うたび、「できない理由や原因」にしがみつくことになる。

ではどうすれば「ニセできない」の呪縛から解放されるのでしょうか。かんたんです。ただ「しない」と言えばいい。

「禁煙しない」「貯金しない」「ダイエットしない」。「しない」というのはあなた自身の判断です。「できない理由や原因」もいらないため、それらを探し回る必要もありません。

ある女性は「片づけしないと運気が下がるのに忙しくてできないんです」と言っていました。でも、彼女は半年前も同じことを言っていたのです。

いかに「できない」と悩んだところで、どうせしないのです。だったら最初から「しない」と言えばいい。

それを「できない」と言うのはできない理由を探すだけムダですし、勇気を出してキッパリ「しない」と言えれば、イヤな気分を味わう時間も格段に減らせます。

ハッキリいえば、現代社会は「無駄な情報が多すぎる」のです。テレビやネット、雑誌や本を読めば、「したほうがいい」や「しないと損をする」といった情報が氾濫しています。たくさん「するべきこと」を知っていても、そのとき、その瞬間にできることはたったひとつです。

もちろん、禁煙も、貯金も、ダイエットも「する」とキッパリ決断するのがベストなのはいうまでもありません。

だからといって、アレもコレも同時にやろうとするから、たったひとつの重要事項にさえ集中できない。「二兎を追う者は一兎も得ず」の典型例といえるでしょう。

人は複数のものを同時に見たり、聞いたり、それらに集中することはできない、それは「物理的に不可能なこと」なのです。

「やるべきこと」がたくさんあるというならなおさら、「いま集中する目の前のこと」をひとつに決めて、それ以外の九割のことを「しない」と断ってください。

そうすれば、「ニセできない」によってよけいなストレスを感じることもなくなり、「するべきことをした自分」を信じられるようになります。

 

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