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データより“感覚重視の日本人”の説得法

和田秀樹(精神科医)

2022年10月07日 公開 2024年12月16日 更新

意見が通る人の多くは、「強い意見」を持っている。一体、「強い意見」はどのように作られているのだろうか。和田秀樹氏が、意見を強化するための情報収集の仕方、日本人に響く意見の作り方を紹介する。

※本稿は、和田秀樹著『なぜあの人の意見が通るのか』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

都合の悪い情報も出すと信用力が増す

最近、データを用いたCMを目にする。「通販型の健康食品で売上1位!」「雑誌の人気ランキングで第1位!」「98%のお客様が『満足した』と答えています」など、自社の商品の良さを数値データによって伝えよう、という戦略だ。

確かに「うちの商品は素晴らしいんです!」と営業マンが主観的な意見を熱弁したところで、信憑性に欠ける。しかし「お客さんの8割が評価してくれています」と言うと、その意見は急に客観性を帯びるので「なるほどな」と思う。

でも、数値データが真実を表しているかといえば、そうではない。もしかしたら、そのアンケートは特別人気のある商品に限定して実施されたものかもしれないし、アンケート対象者が一部の地域に限定されているかもしれない。

またアンケートの選択肢が「どちらかと言えば満足」「どちらかと言えば不満足」の2択だったら、優しい日本人は「満足」を選ぶかもしれない。つまりこのようなデータは、企業にとって都合のよいデータだけを収集している可能性があるのだ。

もちろんデータが偽装でなければ、違法性はない。事実、私が意見を述べるときも、それを立証するデータを選んで用いる。

「最近の子どもは勉強しなくなっているから、学力が下がる可能性がある」と言うより、「2010年の東京の中学2年生を対象にした調査では、家で1秒も机に座らない子が43%もおり、この10年で1.5倍に増えている。これは学力低下を引き起こす原因になるのではないか」と言うだろう。

だから売る側にとって「都合のいい情報」を発信することには、大きな問題はない。しかし、自分の意見や企画を作るときに同じやり方をすると、途端にその意見は「弱い」ものになる。それはなぜか。

東日本大震災の直後、放射能下での日常生活について、専門家の意見が分かれた。「毎時□ミリシーベルトくらいであれば、身体に影響はない」と言う人もいれば、「常時マスクは欠かせない」と訴える専門家もいた。

どの意見を信じるかはともかく、なんとなく「うさんくさい」と感じる。これは、自分に都合の悪い情報を出していないのがわかるからだ。

しかし、たとえば「身体に大きな影響はない」としている専門家が、「でも100%そうとは言えません。チェルノブイリでは...という身体への影響が確認されました」と自身に都合が悪いデータを出し、「でもこれは1万人に1人という極めて稀な例なのです」と締めると、信用力が増す。

自分に都合のいいデータを3つも4つも出し、「何か文句ありますか?」と言わんばかりの顔をされると、「何か隠しているのでは」と不安になる。だから意見を作るときは、都合の悪い情報も同じように集め、客観的に見せることが大切なのだ。

 

ロジック至上主義の人には「主観」をぶつける

国が発展しているときは、足りないものを作れば売れた。マクロの視点で生活に不足しているものを抽出し、必要な新機能を考えて開発する。この流れが、経済でもビジネスでも通用していた。この流れはある意味でロジカルだ。

車が足りない時代には、車を作れば最低限の台数を売ることができた。そしてある程度車が普及したら、安くすることでさらに販売台数を確保できた。しかし昨今は、そのロジカルなセオリーが崩れ始めている。

経済学でも昔は「人は合理的に行動する」と言っていたが、最近は「人は感情で動く」と言う向きも多い。行動経済学などではまさに、そのロジックに乗っている。

あなたがiPhoneやMacを持っているなら、その購入動機を考えてみてほしい。「必要な機能が揃っているから」ではなく、「なんとなく楽しそう」という感情的な理由が大きかったのではないだろうか。

にもかかわらず、すべてをロジカルに考える人もまだ多い。もし、あなたの上司が「ロジカル人間」であれば、論理ですべてを語ることはできないと理解してもらわねばならない。

しかし唐突に「人間って感情的な生き物なんですよ」と言ったところで、通用しない。それを、それこそ「論理的に」証明することができない以上、相手には伝わらないからだ。

だからロジック至上主義の人には、思い切り主観をぶつけるといい。年齢や趣味趣向に大きな差があることを逆手にとり、「私は部長が作ろうとしている商品を買いたいとは思いません」と自分の主観を伝えるのだ。

そのうえで「部長がおっしゃっていることは論理的には正しいと思います。でも計算ずくで作った商品がお客さんの心をくすぐるとは限りません」と言ってみたらどうだろう。そして、もしその場にギャラリーがいたら「みなさんは、どう思われますか」と聞いてみるのもいいだろう。

もちろんそこに、統計数字や何かの調査データなどを加えられるのであれば、それに越したことはない。しかし重要なのは、論理の人に論理で返そうとしないということだ。

あなたが賢い人であればあるほど、相手も論理で対抗しないと「負けた」気持ちになり、生産的でない論理のぶつかり合いが堂々巡りをすることになる。

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「一次情報+神の一言」が最強タッグ

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