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政府は税収に頼らず支出できる? 「財源不足だから増税」に根拠がない理由

森永康平(株式会社マネネCEO / 経済アナリスト)

2022年11月14日 公開

 

「名刺の量を適切に調整すること」は国家財政に似ている?


イラスト:タカハラユウスケ

【森永】月末になると、モズラーは子どもたちから名刺を集めます。名刺はモズラーの判断でどうしようと自由です。翌月に配布する名刺として使うこともできますし、捨ててしまってもいい。

翌月に配る名刺は、足りなければ新しく印刷すればいいわけですから、印刷費が尽きない限りモズラーが発行する名刺に上限はないということです。

国家財政と税金の話に置き換えると、名刺の回収は、モズラーの子ども2人の手元には名刺がなくなり、名刺による労働取引をできなくすることですから、税金として回収した貨幣を政府預金に積み、実体経済から貨幣を消す行為と同じです。

積み上げた政府預金は、次の支出に使ってもいいし、名刺がボロボロになっていれば廃棄してもいいわけです。名刺の廃棄は、国債を償還して世の中からお金を消す行為と同じです。

重要なことは、「当年の支出(名刺の配布)に前年の税収(回収した名刺の数)は影響を受けない」ということですね。


イラスト:タカハラユウスケ

【中村】なるほど...ということは、国家も無限の財政出動ができるということに?

【森永】いえ、そうはなりません。名刺を配りすぎて、家事の手伝いをしなくても月末に十分な枚数の名刺が手に入ってしまうような状況では、兄弟に家の手伝いをさせることができません。

現実に例えると、好景気すぎて実体経済にお金が流通しすぎている状態ですね。その場合は配る名刺の量を減らしたり、回収する名刺の数を多くしたりします。財政支出の抑制や増税ということです。

【中村】ああ、そういうことになるのか。

【森永】一方で、子どもたちが勉学に励みなかなか家の手伝いができないという状況で、「お前は家の手伝いをしなかったから名刺が揃わなかった。この家から出て行け」というのはかわいそうですよね?

家事以外にやらなければいけないことがあり、そっちをがんばったのだから、そのぶん回収する名刺の量を減らしたり、勉強も名刺配布の対象にすればいいわけです。これは減税や財政支出の拡大にあたります。

つまり、兄弟の状況に合わせて適切な名刺の量になるように、足りなければ配る、配りすぎたら多く回収する、というように、機動的に判断すればいいということです。これは国家財政でも同じで、好景気には増税や緊縮財政、不景気には減税や積極財政を行えばいいということです。

この例え話は、経済の仕組みをいくつも含蓄させている大変優れた話です。まず「労働をして名刺を集めなければ家から追い出す」と強制力を持たせたことで、名刺に価値を持たせたこと。

子どもたちにとって名刺は本来なんの価値もありませんが、強制力を持たせることで価値を作り出しました。現実の世界でも、税金の支払いを滞納すれば私財の差し押さえや逮捕といった強烈な罰が待っています。

【中村】たしかに...最近は大学生でもドルを持っている人がいるみたいですけど、結局は日本円で買い物しますからね。

 

「財源不足」は増税の理由にならない?

【森永】もう1つ重要なのは、「税を回収する前に先に支出している」という点です。家事手伝いの代わりに名刺を渡し、月末に回収する制度は、まず最初に名刺を配らないとモズラー家の中に名刺が出回りません。

国家財政も同様で、まず政府からお金を支出しなければ、国内にそもそも回収するお金が存在しません。

【中村】逆に言うと、税金を財源として考えてしまうと、「じゃあ税金として支払うお金は、そもそもどうやって生まれるのか」という問いに答えられない、ということでしょうか?

【森永】その通りです。ちなみに、世界でもっとも新しい国家は南スーダンです。2011年に独立を果たしましたが、すでに南スーダンポンドが流通しています。これも、国家が「まず支出」をしないと成り立たない現象です。

【中村】そんなに新しい国でも、自国通貨が出回っているんですね。

【森永】そして回収後の名刺の処理。回収すれば兄弟は名刺を持っていませんから、お互いの労働取引には使えません。現実で言えば実体経済からお金が消えたことになります。

消えたお金は、政府預金として政府(モズラー)の口座に積まれています。これは手元に置いておいて翌月の支出に使ってもいいし、捨ててしまってもいい。国家財政でも同様です。

【中村】あれ? それなら回収した税金が財源になっているんじゃ...。

【森永】ところが、現実にはモズラーでも国家財政でも、回収した名刺だけでは支出には到底足りないので、新たに名刺を印刷する(国債を発行する)必要があります。そして支出に使う名刺や政府預金が、回収した税金なのか国債発行で新たに調達した政府預金なのかは、わからないのです。

【中村】うーん...どういうことでしょうか?

【森永】例え話で考えてみましょう。中村くんの銀行口座に10万円が入っていて、そこから3万円を引き出してお財布に入れたとします。その3万円は、先月のアルバイト代ですか? 先々月のアルバイト代ですか?

【中村】う〜ん。どうなんでしょう? すいません、わからないです。

【森永】正解です。

【中村】はい?

【森永】「わからない」が正解です。私だってわかりません。

【中村】ええ???

【森永】ATMから引き出したお金がいつのアルバイト代なのかはわかりません。よく思い出してください。銀行預金というのは、銀行が打ち込むただの数字データです(※本書2章参照)。

アルバイト代として入金されたお金も、「ただの数字データ」という本質は変わりません。その口座から現金を引き出しても、預金から現金紙幣への両替をしただけ。銀行預金という数字データに「いつもらったお金か」という区別はないんです。

【中村】なるほど、たしかに...。

【森永】税金にも同じことが言えます。税金として回収し、政府預金に振り替えられた時点で、それはただの数字です。税金で回収したものなのか、国債発行で調達したものなのか、区別はできません。区別ができないということは、政府支出の一部に税金が使われている可能性もあります。

【中村】よくわかりました。

【森永】だいぶ遠回りをして解説しましたが、そもそも「税金が財源かどうか」は考える意味がないんです。実際に税金がなくても支出できるわけですから。

政府預金に入金されているお金は、どのように作られたお金かわかりませんし、税金がなくても政府が支出できることは、実際に行われている業務からも明らかです。少なくとも今の日本では、「財源としての税金」を考える意味も必要もないのです。

 

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