「人の話に耳を傾けられない」のはなぜ?
2022年11月25日 公開
「一方的に話す」「人の話は聞かない」...そんな人、身近にいませんか?
※本稿は、石原加受子著『「あの人とうまく話せない」がなくなる本』(PHP研究所)から一部を抜粋し、編集したものです。
よい聞き手は自己信頼が高い
相手の話に耳を傾けるのは簡単なようですが、案外そうでもありません。
話し下手な人の対処法として、「無理に自分から喋ろうとするよりも、黙って相手の話を聞いて相槌を打つだけでいい」とは、よく言われるアドバイスです。
これでも推測できるように、自分たちはコミュニケーションができているつもりであっても、両者が話す分量に偏りがあって、多くの場合、喋り手と聞き手という関係になりやすいのではないでしょうか。
しかも喋り手が一方的に喋るとしたら、どうしても自慢話や手柄話になってしまいがちです。喋り手が自分の体験談を誇張して話したり虚実織り交ぜて話したりするとき、聞き手もそれを楽しいと感じればいいのですが、たいして面白くもおかしくもない話もあります。
たまにであれば、それもお付き合いと割り切ることができますが、夫婦や恋人同士、友人関係のように、関係が密になればなるほど、聞き手のほうには不満感が募っていくでしょう。
あるいは、二人の関係が、どちらも喋り手であろうとすれば、さらに心が通じ合うコミュニケーションは成立しにくくなるでしょう。
なぜなら、一方的に話す人たちは、共感能力がたいして育っていません。そのために、相手の話に関心や興味を抱くよりも、つまらないと感じ、相手の話に、親身になって耳を傾けることができないのです。
それよりも、一方が話をしていれば、他方は自分の出番をいまか、いまかと待ち構えていて、そのチャンスを奪おうと狙っているような感じになるでしょう。いわゆる井戸端会議というものも、こういった雰囲気になりやすいのではないでしょうか。
「話が通じない。心が通じ合わない」と思うときは、すでにこんな関係ができあがってしまっているのかもしれません。
ではどうして、彼らは、相手の話に耳を傾けることができないのでしょうか。
一方的に喋る彼らは、もともと心が揺れています。自分の意見や意志を持っていそうで、持っていません。言い方が支配的であったり強制的であったりするために、心が強そうに映るだけです。実際の彼らの心の中は、恐怖で占められています。
相手の話に耳を傾けてしまえば、キャッチボールせざるを得なくなります。そうなると、揚げ足をとられる可能性が高くなります。
言葉を戦う道具としている彼らにとって、キャッチボールをするというのは、負けるリスクを背負うことになります。それは、彼らにとって、最も怖いことなのです。
話のキャッチボールは、自分の意見をしっかり持っていないとできません。そんな彼らにとっては、一方的に自分の主張をして押しつけたほうが、安全でいられるからです。
同様に、聞き手としても、一方的に喋る相手に対して、自分は何も言えず、黙って頷くだけでは、キャッチボールをしているとは言えません。自分の意見がなければ、相手の話を素通りさせながら、「ただ相槌を打っているだけ」となっているかもしれません。
こんなふうに、自分の意見を持っていないと、キャッチボールができません。
また、自分自身に対する自己信頼が高くないと、はっきり意見を言うこともできないでしょう。話のキャッチボールというのは、非常に高度なスキルが自然と身についていないとできないことでもあるのです。
何よりも重要なことがあります。それは、「自分の目の前にいる人を大事にする」ことです。目の前にいる人のことを大事に思えなければ、本当は心が通じ合っているはずであるときにも、それを感じ取ることができません。
一緒にいても、人の悪口や陰口や噂話や相談事に終始する人たちが少なくありません。
例えば、AさんがBさんを相手に、Cさんの悪口を言っているとき、Aさんの頭と心の中は、Cさんのことで一杯になっています。あるいは、Aさんが、恋人のDさんのことで、Bさんに相談しているとき、Aさんの頭と心は、Dさんのことで一杯になっています。
Aさんは、Bさんと一緒にいたとしても、Aさんにとっての関心事は、CさんでありDさんです。恋愛に関する相談であればなおさら、Bさんは「ただ、話を聞いてくれる相手」というだけで、Aさんの心の中に、Bさんは存在していません。
Bさんは、相談してくれるという疑似信頼に惑わされて、自分を好きでいてくれると勘違いして、心地良く感じるかもしれません。
けれども、それも度が過ぎて、Aさんの心の中に自分の存在がないと、次第に気づきはじめると、だんだん嫌気がさしてくるでしょう。相手が傍にいることが当たり前になってしまっていると、知らずに、相手のことをぞんざいに扱っています。
Aさんが最も大事にすべき人は、いま、自分の目の前にいて、親身に相談にのってくれるBさんだということです。
またBさんにとっては、Aさんとのそんな関係が、本当は、自分を傷つけていると知るべきです。まさにAさんが、Cさん、Dさんとうまくいかないとしたら、ここにその理由があります。
Aさんは、誰と一緒にいても、自分の目の前にいる人と向き合えない。その相手を大事にできない。これは、Aさんの変え難いパターンであるために、Bさんは、自分を傷つけないために、「何年経っても、Aさんが、自分を振り向くことはないだろう」と知る必要があるでしょう。
【著者紹介】
石原加受子(いしはら かずこ)
心理カウンセラー。「自分中心心理学」を提唱する心理相談研究所オールイズワン代表。「思考・感情・五感・イメージ・呼吸・声」などをトータルにとらえた独自の心理学スタイルで、「性格改善、親子関係、対人関係、健康」に関するセミナー、グループ・ワーク、カウンセリング、 講演等を行い、心が楽になる方法、自分の才能を活かす生き方を提案している。日本カウンセリング学会会員、日本学校メンタルヘルス学会会員、日本ヒーリングリラクセーション協会元理事、厚生労働省認定「健康・生きがいづくり」アドバイザー。
著書に『傷つくのが怖くなくなる本』『「女子の人間関係」から身を守る本』(以上、PHP文庫)、『「苦しい親子関係」から抜け出す方法』(あさ出版)などがある。