眠れないならムリに眠ろうとしなくてもいい
・苦手な上司の顔が浮かんでしまい、眠れない
・フラれた相手のことを思うと、目が冴えてしまう
考え事や悩み事で眠れない、つらい夜を経験したことのない人は、世の中にいないのではないでしょうか。昼間に悩むよりも、寝る前にベッドの中で悩むのが何十倍もつらい理由は、いくつか考えられます。共通しているのは、不安という気持ちです。
まわりも寝静まってしまい暗く静かななかでの孤独感は、不安をかき立てます。これが日中ならば、テレビやネット、おしゃべりなどで不安を紛らすことができるのですが、夜はそういうわけにもいきません。
刑務所のようになにかをすることが禁止されているわけではないのですが、次の日が仕事ならば「ちゃんと寝ないと明日がしんどい」と心配になってくるのが普通でしょう。
不眠症の治療では、こういうときはむしろムリにベッドにいないで、リビングなどで過ごし、眠くなったらベッドに戻るようにすすめています。ベッドの中にいては、不安がますます強くなってしまい、寝つくどころかどんどん脳が覚醒してくるからです。
「今夜は眠れないんじゃないか」という、単に眠れないだけの心配にはこの方法は効きます。しかし、こころに棘のように引っかかっている人間関係などの悩みでは、深夜だろうが夜明けだろうが、悩みから抜けられない人がいるのも事実です。
眠れないのも自然な反応
良い睡眠は、ストレスに対する抵抗力をつけるための基本となります。睡眠不足が続けば、人のこころは元気さを失い、うつ病になる危険も高まります。
ただ、このように説明すると「やっぱり7~8時間は寝ないといけない」「このままだと、病気になってしまう」とばかりに、ますます不安が強くなってしまう人もいます。
場合にもよりけりですが、「眠れないのも、今のところはしかたがない」
「眠れないのも、自然な反応」と、別の見方を患者さんに伝えることもあります。睡眠に対するこだわりと不安を軽くすることが優先される場合です。
眠れないつらさにも、意味があることがあります。たとえば大地震や交通事故など、急にショックなことが起こった日の夜は、たいていは十分に眠れないものです。失恋した日の夜も、同じことでしょう。
ショックな出来事の直後の不眠は、わたしたちのこころを守ってくれるはたらきがあるかもしれないのです。
国立精神・神経医療研究センターの研究グループは、交通事故の凄惨な場面が映ったバーチャル映像を用いた実験を行ないました。実験参加者の半分は、バーチャル映像を見たその晩に十分眠ってもらい、残りの半分の人は完全に徹夜をさせて眠らせませんでした。
すると、バーチャル事故体験後に徹夜を強いられた人は、十分眠った人に比べて、事故場面を思いだすときの恐怖感が和らぐことがわかったのです。睡眠中に記憶は安定しますが、眠らないことでイヤな記憶が逆に定着しなかったと考えられます。
注意しなければならいのは、すべての人にこの現象が当てはまるわけではないということです。長期間の不眠や睡眠不足は、心身の健康に悪影響を及ぼすことは事実です。しかし短期間であれば、眠れないつらい夜も、ストレスから自分を守るはたらきがあることを知れば、気持ちが少しはラクになるのではないでしょうか。