ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。
こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『冒険の書 AI時代のアンラーニング』(孫泰蔵著、日経BP)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。
知的な冒険の書
冒険の書と聞くとドラゴンクエストシリーズが頭に浮かびます。子供の頃、お年玉を握りしめてドラゴンクエストシリーズを買いに行った人もいるでしょう。本書は大冒険のゲーム作品のように、知的な探求の旅に出ようという壮大なスケールの作品です。
本書を読み進めていく中では、今まで積み上げてきた自分自身の既成概念の存在に気づかされることと思います。
潜在意識に近い記憶や思考の中に、融通の利かない自分の心が見えて、反発したくなることもあるかもしれません。自分の価値観ですらもアンラーニングする試みができるのは、まさに読書の価値だとも言えます。
新しい知見を得るという学びも得ながら、簡単に答えの出ない新しい問いを見つけるのは、良書でこそ得られる体験なのではないでしょうか。
教育の移り変わり
歴史的に人類は、社会の根本的な構造が行き詰った際に、教育のあり方を変えようという意思が芽生えるようです。今の日本はまさにそういうタイミングです。まず教育がどのように形作られてきたかを本書では振り返っています。
カトリックとプロテスタントの間で起きた30年戦争の時代に生きたコメニウスは、青少年を含めたすべての人に、世界のあらゆることを教えたい、という願いを著書に託したといいます。それを実現することは難しくとも、教育の中に希望を持つことは共感できるところかもしれません。
その後、産業革命を経たイギリスでジョセフ・ランカスターがクラスという概念を生み出しました。レベル別に生徒同士が教える当時の新しい教育システムは、モニトリアル・システムと呼ばれました。
その後、同じくイギリスの教育者のサミュエル・ウィルダースピンにより、教師から数十人の生徒がいっせいに授業を受ける形式の「ギャラリー方式」が始められます。今の一般的な学校に近いものと言えるでしょう。
また、現代に至るまで、人間は12歳を過ぎると、言語を母国語のように習得することは難しい、という理論がまことしやかに伝えられています。
しかし、その理論は脳細胞や神経細胞の発達のような生物学的知見を転用したもので、学びの領域では検証されていない仮説だといいます。100年生きる時代においては、年少期に急いで何かを習得すべきとは言えないのです。
民主主義と教育思想
民主主義の思想に大きな影響を与えたジョン・ロックや、ジャン=ジャック・ルソーも同様に教育に関する書籍を残しました。
特にルソーの著書『エミール』は有名です。
ルソーは教育において、ロックの言うような良い習慣づくりが大切なのではなく、自然に触れることによって感じる「実感」を身につけることが大切なのだ。そのためには、子ども時代に、自然の成長をゆっくり待たなくてはならず、言葉だけ教えこんでも害になる、と主張しました。
2人の影響を受けて、実際に世界最初の保育園を作ったのは、イギリスの実業家のロバート・オーウェンでした。当時広く見られた児童労働を禁止し、できるだけ本を使わず、実感を大切にした教育が施されました。