「飾らない人」に惹きつけられる理由
なぜ、彼の話は人を惹きつけたのか。それは彼の話し方から、「間違えないように、しっかりしないと」という考えが消えて、等身大の自分をさらけ出したからです。
スピーチをした彼は、用意した原稿を読むのをやめたときに大きく変わりました。「なんとかこの場を切り抜けないと」という姿勢から、「新郎新婦の人生の門出を祝う」という本来の姿勢に変わり、会場中の人がそこに共感したのです。
「上手く話そう」「失敗しないようにしよう」でも「緊張する」「自信がない」「話すのが苦手」...。こういった自分都合の考えを、土壇場ですべて捨てることができました。彼は、新郎・新婦のために、勇気を振り絞り、自分の素をさらけ出しました。
ありのままの自分をさらけ出すことは、非常に勇気のいることです。もしその自分を否定されたり、拒絶されたりしたら...。自分自身を否定されたような気持ちになってしまいかねません。
自分の素を、それも人前でさらけ出すのは、それほど怖い、勇気のいることです。これは読者のあなただけではなく、筆者である私もまったく同じです。
しかし逆に、話を聞く人の立場になって考えてみるとどうでしょうか。友人の結婚式で、いかにも不器用そうな人が、新郎・新婦の門出を祝うために変わろうとしている瞬間。
一歩踏み出そうと、果敢にチャレンジする瞬間。自分の殻を破ろうとしている瞬間。目の前の「等身大の彼」が、最も伝えたい言葉をただありのままに伝えている。
人は、その人が自然に醸し出す人間味や人柄に引き込まれます。中途半端に飾るプロよりも心を開いて挑んでいる素人のほうがよっぽど人の心を打った理由が、よくわかるのではないかと思います。