世界がAIに熱狂する裏で、ドイツが一人勝ちを狙う「環境ビジネス」の中身
2023年07月26日 公開
アメリカを中心に、世界が「AI」で盛り上がっている。しかし、実はAIがこれほどまでに盛り上がっている背景には、ドイツのしたたかな戦略があるのだという。それは一体何か? 内山力氏が解説する。
※本稿は、内山力著『1冊でわかるGX グリーントランスフォーメーション』(PHPビジネス新書)より、一部抜粋・編集したものです。
ドイツがアメリカに勝つための「インダストリー4.0」
インターネットビジネスという巨大バブルビジネスは、GAFAを中心としたアメリカの圧勝で終わる。
ここで完敗したヨーロッパはアメリカへの対抗事業を考える。それはアメリカが実はこれまで連戦連敗してきた「モノを作る事業」、つまり製造業である。その主役となるのは、日本と同様に戦後に工業立国したEUの産業リーダー・ドイツである。
ドイツは2011年に「インダストリー4.0」というキーワードを掲げた。
当時、ドイツのSAP社が企業向けソフトウェアの世界チャンピオンとなっていた。ここでソフトウェアに続いて機械という企業向けハードウェアで勝つための国家戦略を立案した。
具体的には国内(さらにはEU内)のメーカーで動くすべての機械をネットワーク化(機械と機械をつなぐ)することで、ドイツ(EU)全体のグローバルにおける競争優位性を高めようというものである。つまりインターネット王者アメリカに、機械ネットワークで勝つという国家戦略である。
ドイツが考えたのは、世にあるすべての「機械」をアメリカが生み出したインターネットの技術(Web技術という)でつないでしまうというものである。世界中の機械がつながれば、生産の分担がフレキシブルにできる。つまり真のグローバル・バリューチェーンが完成する。
これは後に、そのつなぐ範囲を「機械」のみならず、モノ全体に広げて考えるようになり、IoT(Internet of Things)と呼ばれるようになる。「モノをインターネットにつなぐ」という発想である。
これまでパソコン、スマホしかつながらなかったインターネットに、機械、自動車、建物、さまざまな製品、さらにはヒトをもつないでしまおうという考え方である。
ドイツの機械ネットワークがインターネットにつながっていくと、アメリカの機械ともつながることになる。そして、ドイツの機械ネットワークが世界の中心となり、これをIoTへと進化させていく。
「個人向けのインターネット」ではGAFAに負けたが、IoTというもっとサイズの大きい「モノのインターネット」(ヒトよりもモノのほうが数が多い)では勝とうというものである。スマホが携帯電話、カメラなどあらゆるモノを飲み込んでいったシーンの再現を夢見ている。
オープンか? クローズドか?
IoTではオープン、クローズドという概念が注目される。
インターネットそのものは"オープン"であり、誰でも自由につなぐことができる。GAFAはこのオープンな世界に"クローズド"な世界(GAFAの世界)を作ることで圧勝した。
ドイツのIoTは競争を勝ち抜くためのものであり、自ずとクローズドとなる。つまりインターネットを使って、すべてのモノをドイツのクローズド・ネットワークに飲み込むという発想である。
ここにプラットフォーム/アプリケーションという概念が生まれる。簡単に言えば「つなげる」と「つながった後に使う」に分けて考えることである。前者をプラットフォーム、後者をアプリケーションという。
スマホであればスマホ自身がプラットフォーム、「ゲームやカメラなどのアプリ」がアプリケーションである。GAFAが圧勝したのは、このプラットフォーム(つなぐ所)を押さえたからである。だから彼らのことをプラットフォーマーと呼ぶ。
ドイツは官民一体でIoTのプラットフォームを作り、これを世界中が使うことで国際競争力を高めようとしている。このナショナル・プラットフォーム(ドイツ製で、皆がここにつなぐ)作りこそが、インダストリー4.0という戦略の骨格である。
このIoTプラットフォームに乗るアプリケーション(つながった後にやる仕事)として注目されているのが、EUの国家戦略であるGXである。
IoTという世界中のモノがつながったネットワーク・プラットフォームで、「カーボン・ニュートラル」のためにカーボンの量を測定し、コントロールしていくというものである。
カーボンを発するモノ(建物、機械など)がつながっていれば国、そして地球としてカーボンをコントロールすること(=GXアプリケーション)が可能になる。そしてこれを支配するのは、ドイツがコントロールできるプラットフォームという「つなぐもの」である。