
『結局、いいかげんな人ほどうまくいく』を2月26日に発売したメンタルヘルス・コンサルタントの船見敏子さん。
前回の記事では、雑誌記者として1000名超の著名人にインタビューしてきたからこそ気づいた「力を抜くことの大切さ」についてお話いただきました。本稿では、なぜ「いいかげんな人」ほど成功できるのかという核心部分に触れる内容をお届けします。
本質が何か見えれば、力まずに済む
――多くの方の取材やカウンセリングをしてきた船見さんですが、そんな中でも特別印象に残っている人として、新入社員のときから「社長になる」と宣言して本当になってしまった人の話を前回伺いました。彼の話を聞き突き抜けた人だと思いましたが、いいかげんな人たちにたくさん出会ってこられて、総じてどのような印象を受けましたか?
【船見】皆さん、力が抜けていました。のほほんとしている感じの人も結構多かったです。そして、決断が早い。
例えば、件の社長は、「多くの人はもっといいものができるんじゃないかと時間をかけて考えるけど、たいてい最初に決めたことが一番いいんだから、そんなに考える必要はないんですよ」と話してくれました。確かに、自分の経験を振り返ってみても、考えれば考えるほど余計なものを足してしまってぐちゃぐちゃになっていくなあと。
――偉人のような名言ですね。張り切って何日も前から準備した旅行鞄が、余計なもので重くなってしまったことを思い出してしまいました。
【船見】私が嫌いなものは「重いカバン」と「残業」です(笑)。力が入っていると、不安になってあれもこれもと準備してしまうんですよね。
――スポーツでも「力むと実力を出せない」と言いますが、それに通ずるところがありそうですね。
【船見】いいかげんな人たちは、自分軸をちゃんと持っているんです。自分は何を大事にするのか、何を守るのかという軸がはっきりしているから、それ以外の余計なことに振り回されない。力まないんです。
あとはどんどんそぎ落として、すごく身軽になっている人が多いと感じました。そうなるためには、自分のやっていることの本質的な目的は何かを追求することが大事ですよね。
事務のお仕事をしている人だったら、「自分が作る書類で業務が円滑に進むこと」かもしれない。営業の方なら、「お客様の毎日が充実する」といったことになるでしょう。そこにつながることさえ守っていれば、多少手を抜いても問題はそうそう起きないはずです。
実力以上を出そうとするから、かっこつけて失敗したり、時間をかけすぎて疲れてしまったりするんです。
いいかげんになるとは、柔軟になること
――帯には森永卓郎さんが推薦文を寄せていますね。「いい加減さは柔軟性を生み出す」。名言ですね。
【船見】すばらしい言葉です。「いいかげん」の一番のメリットを森永さんから推薦文としていただいたと感じています。いいかげんになるということは、柔軟になることなんですよね。
――確かに、この本に出てくる方たちは、みなさん柔軟です。中にはぐにゃぐにゃの人もいますね(笑)。
【船見】「こうするべき」などの考えに縛られて凝り固まってしまうと、選択肢を狭めてしまいます。「べき」思考を捨てて、柔軟になるととても心がラクになります。森永さんの推薦文は、まさに私の伝えたかったことを言葉にしていただいていました。
――「いいかげん」という言葉からは「ラク」「手抜き」のような連想をしがちですが、森永さんが言葉にしてくれた「柔軟性」は、この本に出てくる方々をズバリ表現されていると感じました。
【船見】そうですね。いいかげんな人たちは、自分軸がしっかりあるから、怖れずに行動できるのです。誰にだって怖れの感情はありますが、自分軸さえ揺らがなければ大丈夫だと思えると、強くなれるのだと思います。
だからその分、必要ないと思うことは徹底してやらないということにも迷いがありません。それが「いいかげん」に見えるカラクリだと思っています。
怖れや不安を抱えている方からしたら、そんなの無理だと思うかもしれません。この本ではとんでもない人たちの例をたくさん紹介していますから(笑)、「ここまでやる?」と驚かれるかもしれません。でも、彼らのように思い切って行動してみることで、不安や怖れなんてどうってことないものなんだと気づくと思います。
――「良い人に見られなきゃ」「親切にしなきゃ」「後輩のことは手厚く対応しなきゃ」とか、心優しいがゆえ、真面目であるがゆえに、不安や怖れを強く感じて、つい無理をしてしまっている人は多いと思います。
【船見】もっと自分勝手でいいんですよ。本の中に、機嫌がよくないときに電話に出ない人のエピソードを書いたのですが、そんな感じでいいんです。
電車の中で電話に出る人を見ることがありますが、「出なくていいのに」といつも思います。だって、向こうの都合で一方的にかけてきているのだから、あとで折り返せばいいだけです。自分が合わせる必要などないんです、たとえそれがお客さんだったとしても。
迷惑をかけるくらいでちょうどいい
――そういう線引きが難しいと感じます。相手を慮りすぎているのかもしれません。ですから、この本の中のいいかげんな人たちの言動は衝撃的で、ここまでやっちゃって大丈夫なんだと、目から鱗が落ちました。
【船見】迷惑をかけるくらいでちょうどいいと思います。そもそも日本人はまじめでいい人が多いですよね。ちゃんとしすぎているんです。だから、思い切った行動ができないとも言えます。
いいかげんな人は、自分の芯がしっかりあって、何をするべきなのかが明確だから、人からどう思われようが失敗しようが気にしない。思い切って行動ができるので、成功しているのです。
――「成功するために」、「人に好かれるために」と言うことをテーマにした書籍はたくさん出ていて、たいていそこには「やる『べき』こと」がたくさん並んでいますよね。
【船見】「べき」なんて不要!だということを、これまで関わらせていただいた方々に学びました。まずは自分を大事にすることが最も重要だと私は思います。
いいかげんな人たちは、自分ファーストなんです。一見、自分最優先だなんてわがままに見えるかもしれませんが、自分を大事にできない人って、他人のことも大事にできません。だから、まずは自分を大事にしてあげること。何がしたいのか、嫌なことは何なのか、心の声をよく聴いて、それを優先する生き方をしていくと、"良い加減"になっていけると思います。