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精神科医が語る「つらい人間関係」を引き起こす1つの要因

名越康文(精神科医)、武田友紀(HSP専門カウンセラー)

2023年11月10日 公開 2024年12月16日 更新

精神科医が語る「つらい人間関係」を引き起こす1つの要因

『「繊細さん」の本』などで繊細さんの第一人者となったHSP専門カウンセラー・武田友紀氏と、テレビなどのマスメディアでおなじみの精神科医・名越康文氏が、職場や学校の人間関係で苦しむ人が取り入れるべき「相性」という視点の重要性について語ります。

※本稿は、名越康文・武田友紀著『これって本当に「繊細さん」? と思ったら読む本』(日東書院)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「相性」という視点を取り入れる

【名越】僕の師匠で精神科医の頼藤和寛先生という、大阪でとても有名だった先生いわく、生まれつきの性別や兄弟の生まれてくる順番、経済的理由など、いかんともしがたい数々の理由がありますが、実際に出会った子どもたちを通じて感じたのは、結局は相性、マッチングに様々な問題の原因があると。

たとえば、難しい性格の子どもでも、親との相性が良ければある程度乗り越えられることもありますし、家庭環境が整っていても相性が悪かったら理解しあえないこともある。

相性の良し悪しを許容したうえで、相対することが大事だということです。相性の問題だということがわかっていたら、ある程度人間関係の悩みは緩和されるかもしれません。

そもそも相性というものを、日本人はこれまで意識してこなかったように思います。たとえば団塊の世代(1947~1949年生まれ)が成人期を迎えたとき、一丸となって頑張ろうというような雰囲気で、「赤信号みんなで渡れば怖くない」という言葉が流行語にもなりました。

義務教育も均質的な生徒を育てて、そこからはみ出ないような教育がされますよね。今でもそうした価値観が生きていて、個人の相性という意識は、現代日本人にとっては盲点かもしれません。しかし、そこを補足しないとみんな生きづらくなりますよね。

職場や学校で自分の能力が低いと思って悩んでいる人は多いと思います。しかし、それは個々の能力が原因ではなくて、「相性が良くない」という面もあるのかもしれません。

反対に上司や同僚との相性が良ければ、それまで以上の能力を発揮するかもしれない。そういう柔らかい視点は真実ですし、必要だという風に思います。

【武田】私は育った家庭のなかで、なぜこんなにも傷ついてきたのかを知りたかったんです。自分の繊細さが要因のひとつなんだろうか、本当にそうなんだろうかとずっと疑問でした。でも、相性という要因も大きいのかもしれません。

【名越】もちろん、武田先生も苦労しているのですよ。そのうえで、学校でも家族でも集団で育つわけです。そのなかで人間には相性の問題があるわけです。

【武田】ああ、腑に落ちました。というのも私は3人姉弟の真ん中で、姉弟でも繊細なほうが苦労するのかなと思ったのですが、単純にそうとも言えなかったんです。

もちろん個人の性格や経験もあるのでしょうけど、同じ姉弟でも精神的な安定度がちがうのは、親との相性もあったんだろうと思いました。

自分の繊細さと向き合うことももちろん大事ですが、相性に話が行き着くと、つきものが落ちるように感じます。所属する集団と価値観が合わないことが原因だと考えれば、これまでとはちがう見方ができますね。

【名越】僕も中学、高校とそれなりに良い学校で、好きな先生がいっぱいいましたが、校風だけは合わないと感じて過ごしていました。それも今思えば相性の問題だったんだと思います。安直にそういう結論にもっていってはいけないけど、相性という要素は重要な気がします。

【武田】相性と言われると、ちょっとほっとしますね。自分に問題があるわけでもないし、他の誰かが悪いというわけでもないので。

【名越】善悪ではなく相性。いいじゃないですか。

【武田】HSPの概念が世に広まって良かったことのひとつは、相性のように、まさに「誰かが悪いわけではない」という受け止め方ができる点です。

相談者さんもHSPを知るまでは、うまくいかない理由を「私の努力が足りないんだ」「私が弱いんだ」など自分のせいだと思っていることがありますが、HSPを知ることで「なんだ、そうだったのか」と思えて、自分を否定しなくてもよくなるんです。

仕事でも、自分の気質や価値観がその職場と合わないんだという"相性の問題"だとわかれば、今の職場で消耗し続けるのではなく、自分に合う職場を探そうと、より幸せなほうへ進みやすくなるんです。

 

トラウマを抱えたままどう生きるか

【武田】名越先生の本に「カウンセリングというのはゲリラ戦だ。全面戦争にしちゃいけないよ」という一節があり、すごく刺さりました(『仕事で折れない心のつくり方』(アルファポリス))。トラウマだけに着目するのは相談者さんの負担になりますし、過去にとらわれてしまいます。

【名越】その言葉(「カウンセリングというのはゲリラ戦だ」)は、僕がアドラー心理学を学んだ故・野田俊作先生がおっしゃっていた言葉です。全体を標的にしてしまわないで、人生のある局面を修正してみる。そうすると意外に他の時間にまでその良い効果が波及することがある、という意味かと思います。

【武田】専門的なトラウマ治療を受けられなくても、トラウマはある程度までは緩和されると思います。

これからの仕事をどうするか、今の人間関係をどうするか、といった現実に焦点を当てて「やってみたら大丈夫だった」という経験を重ねるうちに、トラウマの影響がやわらいで、少しずつ回復していくからです。

しんどいときこそ、ちょっとした楽しみを取り入れてほしいですね。自分に合う環境に移ったり、心の内を話せる人を一人見つけることでも、ずいぶん生きやすくなります。

【名越】仕事であれ趣味であれ、たったひとつの小さなことに対して全力でエネルギーを注力できる態勢が整ってくると、今日1日が一生のように生き生きとしてくる。そうしてさらに時間を重ねていくと、その人の人生全体が前向きで、ポジティブな方向に変化していくと思います。

 

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