40代半ばで離婚...失意の女性がビーチで遭遇した「人生が変わる予兆」
2023年11月17日 公開
何かが変わる予感
頬がひりひりしてきて、日焼けしかけているのに気づいてわれに返った。思ったより長居してしまったうえに、まだ誰にも話を聞いていない。だが、締めきりが迫っているので、インタビューは省略して、午後の渋滞につかまる前にブルックリンの蒸し風呂のようなアパートメントへ帰ったほうがいいと判断した。
駐車場を抜けて道を歩いていると、黄色いコテージが目にとまり、その窓に掲げられた手書きの〈貸別荘〉の看板が点滅する赤いネオンサインみたいに視界に飛びこんできた。
運命的。その看板をみつめながら思った。急に胸が高鳴り、気分が盛りあがってきた。なかはどんな感じなんだろう。朝、コーヒーを手にビーチを歩き、昼は波の上ですごし、夜はロブスターをゆでている自分の姿を想像した。
モントークは何年も前に一度訪れたきりだった。寒い早春の週末、灯台近くの岩場にひさしぶりに姿を見せたアザラシを見にエリックと来たのだ。あのときも、群青色の海と、田舎めいた雰囲気に惹かれたものだった。
自分の声を聞く
ああ、ここですごしてみたい。そう思ったものの、そのまま歩き続けた。
きっとすごく高いし、と自分に言い聞かせながら。わたしが来られる日は空いていないかもしれないし。
ここでひとりで何をするわけ? サーフィンなんてどうやっておぼえるの? サーフボードもウェットスーツも持ってないし、どこでどうやって買えばいいのかさえわからないのに。
それだけお金を使って、ずっと雨だったらどうするの?
車をとめた場所まであと少しというところで立ちどまり、そういうネガティブな声をすべて追いだしてきびすを返した。
いままでいったい何度これをやってきただろう。慣れてないからとか、心配だからとか理由をつけて、自分でこうと決めた枠からはみだしそうなことには、トライしようとすらしなかった。でも、そういう癖を直し、不安を克服し──少なくとも、そういうところに邪魔をされずに──自分の世界を変えたくてたまらなかった。