理想を追求する一方で「適度な諦め」も必要

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「安定」なくして結婚なんて……

　いま日本の若い世代は、ひと昔前とは違って、結婚や育児に対して非常に不安を抱いています。年配者が「最近の若者は変わった」と感じるのはいつの時代も同じですが、こと恋愛・結婚への考え方は明らかに「最近の若者は変わった」。何に対しても、まずネガティブな発想ありき、です。

　この傾向は、日本経済が大きく関係していると思います。1990年代初期にバブルがはじけ、以後20年にもわたって不況が続いているので、若い世代は、景気がよくて社会全体が浮かれていた時代を知りません。

　そして現在は、大卒者でさえ就職率が60％未満と、大勢の人間が就職したくてもできない。自分の安定さえままならないのに、結婚なんて考えられるはずがありません。

　年齢が若いと、あらゆることに対して可能性があるし、できることの幅も広い。ですが人間は、不安を抱えていたり、不安定な生活をしていると、どうしても第一に「安定」を求めてしまいます。私自身、20代前半から後半にかけて、漫画家にはなったけれども、仕事もお金もなく、まったく食べられない時代がありました。そのころは、「とにかく早く、収入の安定した人と結婚したい」という発想しかなかった。実際に、そのころ付き合っていたのは銀行員。彼との結婚を考えると、なにか自分が安定した気になって、そのときに初めて「自分がなりたいのは銀行員の妻なのだろうか？」と考える余裕が出てきました。

　自分がほんとうは何を望んでいるかといったことは贅沢な悩みであり、不安定な基盤ではどう生き抜くかのほうが先決なのです。

　とくに女性は、たとえ自分が安定した仕事をもっていても、「私が夫を食べさせてあげるわ」などと思う人は、ほとんどいません。たしかに世の中には、「私が稼ぐから、旦那は主夫をやってもらってもいい」という人もいないではありませんが（そして彼女たちが往々にしてメディアでもちあげられたりしますが）、ごくごく稀にすぎません。私でさえ、仕方がないから仕事をしているのであって、積極的にはしたくない（笑）。大半の女性は、ホンネでは夫に安定して稼いでもらいたいと思っているので、男性が安定した職に就いていないのであれば、やはり結婚はできないのです。

　育児も同じで、「安定」がなければできません。そして経験上、育児をうまくやるためには三つ重要なことがあります。

　第一に、夫との関係性のよさです。日々の生活のなかで、育児は負担がとても大きい。そのなかで、赤ん坊が同じことをしても、カッとなって怒るか、しようがないわね、と許すかは、夫との関係性によってずいぶん変わります。

　第二に、経済（家計）の安定です。当然のこと、子供にはさまざまにお金がかかります。くわえて、世間一般の夫婦間の喧嘩の原因で断トツに多いのが「お金の話」。第一の要因を満たすためにも重要な要素です。

　さらに第三に、親である自らの年齢、つまり「精神の成熟」です。子供を虐待死させている事件をみると、親の年齢が若いケースが圧倒的に多い。自身に「まだ遊びたい」という気持ちがあると、子育てはとてもできません。育児は24時間の仕事であり、一回トイレに行くことさえ大変なときがある。もちろん遊びに出かけることはできないし、お酒も飲めません。育児には、ある程度、自分が人生の黒子になるという心構えが必要なのです。

　私は、30歳直前で前の夫とのあいだに長男を産み、39歳で現在の夫とのあいだで長女を産みましたが、9年前に比べていまはとても穏やかに育児ができています。それは、この三つが安定しており、この九年でずいぶん「自分は人生の主役でなくてもいい」と思えるようになったからです。

女の結婚には年齢制限がある

　日本全体が不況なので、経済的に不安定であるのはある程度仕方ないことですが、それ以上にいまの若い人たちをみていて思うのは、みなが必死に「人生の主役」であろうとしていることです。これが結婚や育児への壁になっている気がします。

　マスコミの影響も大きいのでしょうが、「夢を諦めない」「頑張ればいつか夢はかなう」といったメッセージを浴びすぎていて、若い人ほどそれを純粋に信じてしまっている。大半の人間が大学を卒業したら就職し、「20代のうちは仕事を犠牲にしてまで結婚したくない」とか「子供を産みたくない」と日々をガムシャラに生きる。そして、仕事にのめり込んでいくうちにどんどん歳をとり、気がつけば30代半ばで、独身の人間が周りにほとんどいない状況になっているのです。

　もし将来、結婚して子供をもちたいのであれば、結婚や出産に関して将来どうしたいかを、若いうちから漠然とでもいいから考えておくことは重要です。とくに女性の場合、結婚に年齢制限はないといいつつも、年齢を重ねるにつれてどんどん難しくなるのが現実です（男性の場合は、仕事をしていれば、女性との結婚に困ることはそれほどありません。とくにお金さえあれば、いくらでもリカバーが利きます）。

　結婚相談所に行くと明白にわかりますが、女性に求められるものはキャリアでもなんでもなく、「若さ」と「美貌」の二つだけ。そして残念ながら、美貌のある中年女性よりも、普通の若い女の子のほうが、圧倒的に人気があるのです。中高年以上限定の結婚相談所に勤める知り合いによると、成婚まで至るカップルのパターンは、たった一つ。60歳以上の金持ち男性と、30半ばくらいまでの、出産できる可能性のある女性です。また、40代、50代の男性が求めるのは、20代女性です。「若さ」は、結婚市場においては、恐ろしく価値が高いのです。

　世の中には、社会に出たときから目を皿のようにして、いい男、稼げる男を探している女性はたくさんいます。仕事が第一だと思っている女性は、それに気づかないまま20代を終え、30歳を過ぎてふと気づけば、周りに理想の独身男性がいない。または20代に彼氏がいたとしても、「もう少し独身でいたい」と思っているうちに別れてしまい、次の相手がなかなかみつからない。そして「どんな相手でもいいから」と口ではいいつつも、実際に紹介されれば「この人だけはちょっと……」と拒み、「いい人がいたら、いつかね」といいつづけ、結局、独身のまま――これは、じつによくあるパターンです。