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生き方

スタンフォード大の実験にみる「職場でのラジオ体操」がもたらす効果

内藤誼人(心理学者、立正大学客員教授)

2024年10月04日 公開

スタンフォード大の実験にみる「職場でのラジオ体操」がもたらす効果

「職場がギスギスしてる」「挨拶がない」「生産性を高めたい」...。組織力を高めるのはリーダーの大事な役割。楽しく一体感あるチームをつくるためにできる簡単なヒントを心理学者の内藤誼人氏が語る。

※本稿は、内藤誼人著『世界最先端の研究が教える新事実 対人心理学BEST100』(総合法令出版)より一部抜粋・編集したものです。

 

職場の生産性を上げるには、社員を楽しませるこんな工夫を

ビジネス書を読んでいると、「従業員を幸せにする会社ほど、生産性が高い」ということが書かれています。

なんとなく、「そうなのだろうな」とは思いますが、現実にきちんとした裏付けはあるのでしょうか。心理学者は、こういうときに、必ず実験をして確認します。

イギリスにあるウォーリック大学のアンドリュー・オズワルドは、「幸せな気分のときに、本当に生産性が高まるのか」を確認するための実験を、何度もくり返しました。参加者はのべ700人を超えます。楽しい気分にさせるために、オズワルドは第1実験と第2実験では、「コメディアンのビデオ」を使いました。コメディアンのビデオを10分間見せてから、2桁の数字を5つ足し算する(31+51+14+44+8787=?)という単純な計算作業をやらせてみたのです。

この実験では、できるだけ早く、できるだけたくさん解くことが求められました。正解すると1問につき、0.25ユーロが支払われることになっていたので、参加者は真剣に取り組んでくれました。これで生産性を測定してみたわけです。

その結果、コメディアンのビデオで大笑いした後には、たしかに生産性は上がっていました。「楽しい気分を与えてやれば、生産性は上がる」ということは、本当のことだったのです。

オズワルドはさらに、果物やチョコレートを食べさせることで幸せな気分にさせたときはどうなるのかも実験しました(第3実験)。このときにもやはり、生産性は上がりました。

お笑い映画を見せようが、おいしいものを食べさせようが、幸せな気分にさせるやり方はどうでもよいようです。どんな形であれ、「楽しいなあ」「幸せだなあ」という気持ちにさせることができれば、生産性は12%ほど高くなる、ということをオズワルドは突き止めました。

もし私が会社の経営者であれば、従業員を楽しませることを第一に考えるでしょう。

従業員が楽しく仕事をしてくれれば、生産性は上がるからです。「みんな手を抜くな!」とか「真剣にやれ!」とハッパをかけなくとも、楽しい気分にさせることができれば、生産性は自然に上がります。

たとえば月曜から金曜まで、遅刻をせずに出社した人には、毎日1枚ずつトランプのカードを引かせるのもよいでしょう。

月曜から金曜まで1日も遅刻も欠勤もしなければ、5枚のカードが手に入ります。その手持ちのカードでポーカーを行い、一番高い役の従業員にはボーナスが出る、という楽しい取り組みをしたところ、従業員の遅刻や欠勤率を下げることができて、しかも生産性もアップしたという論文もあります。

どうせ仕事をするのなら、みんなで和気あいあいと楽しい気分でやりたいものです。そういう雰囲気づくりをしてくれる上司や社長の下でなら、従業員は一生懸命に仕事をしてくれるのです。

 

社員の一体感を高める簡単な方法

職場でのラジオ体操は、取り入れたほうがいいでしょう。一緒に動きを合わせれば、社員の一体感が高まり、絆が強化されます。毎朝ほんの10分程度の時間を使うだけで「社内の和」が生まれるのですから、すぐに始めていただきたいと思います。

軍隊や教会、コミュニティなどで、一緒に歌を歌ったり踊ったり、行進したりするのはなぜでしょうか。その理由は、このような活動が”シンクロニー(同調傾向)"を高めて、メンバーとの心理的な絆を強める働きをするからです。

「一緒に何かすると、私たちはとても仲良くなれる」ということを、昔の人たちは経験的に知っていたのかもしれません。

米国スタンフォード大学のスコット・ウィルターマスは、3人組のグループをいくつか作らせ、キャンパスの周囲を歩いてもらう、という和やかな実験をしたことがあります。ただし、あるグループには「手の振りや、歩調などを合わせて歩いてきて」とお願いして、残りのグループには「3人で普通に歩いてきて」と伝えました。

散歩が終わったところで、それぞれのグループに、協力して行うゲームをしてもらいました。

すると、歩調を合わせて歩いたグループのほうが、協力が増えることがわかりました。歩調を合わせて歩いていると、シンクロニーが高まり互いに協力するようになったのです。

次にウィルターマスは、それぞれのグループに一緒に歌を歌ってもらいました。それでもやはり、歩調を合わせて歩いたグループではより協力行動が見られました。私たちは、どうやら同じ動作をしていれば、一体感が高まるみたいです。

ラジオ体操では、まさにみんなで同じ動作をします。ウィルターマスの実験で見られたように、協力行動が増えることが予想されるのです。

「どうも、うちのチームはみんなギスギスしている」「うちの社員は、お互いに挨拶もしない」「普段、うちの職場は静まり返っていて、ほとんど会話もない」もし、そんな悩みを抱えているのなら、だまされたと思って朝のラジオ体操を取り入れてみてください。

最初は、みんなイヤイヤ行うかもしれません。でも、そのうち一緒に身体を動かすことが楽しくなり、仲間意識も芽生えてきます。よい影響があるのです。

もし社歌があるのなら、みんなで歌うのもいいと思います。そうやって同じ行動を取っていれば、間違いなく仲良くなれます。

著者紹介

内藤誼人(ないとう・よしひと)

心理学者/立正大学客員教授

慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。[有]アンギルド代表。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ。その軽妙な心理分析には定評がある。『人は「暗示」で9割動く!』(だいわ文庫)など、心理に関する著書多数。

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