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地震がきっかけで、面倒な洗い物ができるように...「防災」のハードルが下がる考え方

佐藤唯行(フェーズフリー協会代表),マミ(CAMMOC)

2024年10月30日 公開 2024年12月16日 更新

地震がきっかけで、面倒な洗い物ができるように...「防災」のハードルが下がる考え方

キャンプ好きな3人の女性から成る「CAMMOC(キャンモック)」。防災士の資格をもつキャンプインストラクターとして、"いつも"の暮らしを豊かにするものが"もしも"のときも役立ち支えてくれるという「フェーズフリー」の考え方のもと目指すは、理想的なライフスタイルと防災の両立。

そのためのアイデアが、新刊『ラクして備えるながら防災 フェーズフリーな暮らし方』にたっぷり収録されています。

キャンモックのマミさんが、フェーズフリーの普及や、フェーズフリーな商品やサービスの企画、認証を行う「フェーズフリー協会」代表、佐藤唯行さんと対談。その様子を全3回の連載でお届けします。本記事は第3回です。

(構成:三浦ゆえ)

 

全員がスペシャリストになれるわけではない

【佐藤】『ラクして備えるながら防災』では、子どもの防災についてもたくさん提案されていますが、マミさんはじめキャンモックのみなさんは、ずっとお子さん連れでキャンプをされているんですよね?

【マミ】はい、私の息子がキャンプデビューしたのは生後1か月のときです。生まれたときから、できるだけ自然に触れさせて、使うものも自然なものを選んで育てたいと思っていたんです。穢(けが)れを知らないこの子を育てるのに、どういう環境がいい?何を使うべき?と考えたとき、私の答えは「自然」一択でした。

【佐藤】そう考える親御さんは多いと思うけど、実際やってみてどうでしたか?

【マミ】洗剤も食品も、こんなに添加物が入ってなくてもいいんじゃないかなとか、あれこれ疑問が出てきて、ナチュラルなものひとつで心地よく暮らしたいと思って、どんどん深掘りしていきました。

アロマは災害時にも活躍する
▲マミさん愛用のアロマ。殺菌、消臭、リラックスなど多用途な薬理効果があるため、災害時にも活躍。「いつもの香り」は安心にもつながる。

【佐藤】本のなかで紹介されている暮らし方や住まいのあり方って、災害時にも対応できるフェーズフリーであることはもちろんなのですが、とても素敵に見えました。こんな暮らしをしたい、住んでみたいと思わせてくれるもので、ウェルビーイングも向上すると思います。ただ自然志向というだけではなくて、便利なものは積極的に取り入れていますよね?

【マミ】葛藤もありましたね。都市部に住んでいると自然な暮らしを極めるのはむずかしいし、私はパソコンもスマホも使いたい。便利な機器も積極的に取り入れたい。自然な子育てのコミュニティに参加して勉強にはなりましたが、実践するのがむずかしいものもありました。

できない自分に負い目を感じ、心苦しくなって、コミュニティに足が向かなくなりましたね......。

【佐藤】防災にも言えることだと思いますが、スペシャリストだけができるというものは、なかなか広まらないですよね。

【マミ】あんなに自然な暮らし、子育てがしたいと思っていたのに、私って中途半端でダメだなぁと落ち込みました。そんなときに友人から、「マミちゃんって、めっちゃハイブリッドだよね」といわれて。反射的に、「お、それだ!」と思いました(笑)。

私はハイブリッドなんだと思えたら自信も出てきました。そこから、両者をつなぐことを考えるようになった気がします。まさに今も、便利で最先端なモノが好きな層に、自然な生活のよさやアウトドアの楽しさを知ってもらうには、どうすればいいのかなって。

【佐藤】ハイブリッド、というのはよく理解できます。防災だけに特化した家は、災害に強いのかもしれないけど、日々の暮らしが快適かというと、そうはならないことが多いと思います。

 

暮らしや性格が違えば、防災の目的も方法も人それぞれ

【マミ】私にとって防災とは何だろうって、本を出版した機会にあらためて考えてみたんです。そこで出た答えが、「防災は、生きるためにするもの」でした。私は防災について考えるようになる前から、キャンプや日々の生活をとおして、「生きやすい」「暮らしやすい」を追求してきました。

それも結局は「よりよく生きるため」。だから、防災と出会ったときにもすべてが地続きで、フェーズを区切る壁のようなものは生まれなかったんだと思います。

【佐藤】防災は生きるためのものだし、生きやすいを考えることが防災になると、私も思います。マミさんたちの防災の提案は、たしかにキャンプのスキルや考えがたくさん活かされているけれど、それ以前に「暮らし」に起点があるんだ、ということが、いまのお話を聞いてよくわかりました。

【マミ】と、壮大な話をしているようですが、熱心に防災に取り組んで今のような暮らしをつくり上げた、というわけではないんですよ。私、ご飯を食べたあとの洗いものが、どうしても面倒くさいんです。夕飯のあとも食器を流しに放置して翌朝洗うなんてこともありました。

でも防災の意識が少しでもあると、「このあと地震がきたら水道が止まるかもしれない......」というのが頭をよぎるので、「そうなったら困るな」と身体が動くんです。そういうことの積み重ねで、面倒くさがりがきっかけになっていることはたくさんあります。

靴の収納にも工夫が
▲靴を戸棚の靴箱に片づけるのが面倒で出しっぱなしになっていたため、フック付きゴムで落下防止策を施しオープン収納に。玄関が広くなり避難時もスムーズです。

【佐藤】それはリアリティのある動機ですね。一歩先に起こりうることをモチベーションにして、前倒しの生活にする。そしてそれが結果として、生活に余裕をもたらしている。

【マミ】フェーズフリーの「もしも」は災害時のことをいっていますが、「もしも」の想定は、多くの人が日々やっているような気がするんです。もしも夢がかなったら、もしも思い描く自分になれたら......と想像して備えている。

釣り人なら、大漁を想定して大きなクーラーボックスを用意していくとか、恋愛をしていれば「今日は好きな人に会えるかもしれない」と思って好きな服を着ておくとか。目標や憧れの「もしも」に備えらえるなら、きっと災害時の「もしも」にも備えられる。反対に、災害時の「もしも」に備えることができるようになったら、いろいろな「もしも」が膨らんで未来がどんどん明るくなっていくと思います。

【佐藤】すごく素敵な考え方ですね!「もしも」は、非常時やつらいことだけではなくて、うれしいことも含まれる。それを生活にフィードバックすると、暮らしがもっと豊かになっていく。自分にとって特別にすてきなことと、「いつも」とのあいだにあるフェーズの垣根も、そうやって超えていけますね。

【マミ】 こんなふうに防災を考えるのって楽しいですよね。もちろん真剣ですよ。災害時に防災を楽しく考えられるかというと、それはまた別の話。でも「災害が身近な日常」はこの先もずっと続くので、「もしも」のためにいまを楽しみながら備えておきたいと思っています。そうやって常に「いつも」を豊かにしながら、「もしも」に強い暮らしをめざしています。

著者紹介

CAMMOC・マミ(きゃんもっく・まみ)

防災士やキャンプインストラクターの資格を有するママキャンパー。「キャンプのある暮らし」をテーマに地球の未来を創造する会社を運営する。自分に合う暮らしや防災を探求し、キャンプを通して無理なく楽しく続ける防災法を提唱するほか、テレビ・ラジオ出演、執筆やイベント登壇など、幅広く活躍する。著書には『ラクして備えるながら防災 フェーズフリーな暮らし方』(辰巳出版)などがある。

佐藤唯行(さとう・ただゆき)

フェーズフリー協会代表

「災害軽減(防災)工学」を専攻し、防災の専門家として活躍。国内外で多くの社会基盤整備および災害復旧・復興事業を手掛け、2014年には「フェーズフリー」を提唱。フェーズフリーの推進において根源的な役割を担い、複数団体の代表を務める。著書には『フェーズフリー 「日常」を超えた価値を創るデザイン』(翔泳社)がある。

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