遠慮して意見が言えない人でもできる「波風を立てずに主張する」会話術
2024年12月30日 公開
周囲との和を乱さないように、自分の意見は言わずに隠してしまう人は多いものです。対して、フランスでは意見を主張することは当然のこととして受け入れられているといいます。前田康二郎さんが、日本にも長く在住した経験を持つフランス人夫妻、パスカル・フロリさんとセドリック・フロリさんに学んだ「意見の言い方」について書籍『改定新版 自分らしくはたらく手帳』よりご紹介します。
※本稿は、パスカル・フロリ、セドリック・フロリ、前田康二郎著『改定新版 自分らしくはたらく手帳』(クロスメディア・パブリッシング)を一部抜粋・編集したものです。
言うべきことを言わないと、 物事がうまくいかなくなる
「日本の人たちはいつもお腹に言いたいことを溜めているから大変ですね。お腹が膨れてしまいます」。日本の組織の話をすると、パスカルさんにいつもそう言われます。
たとえば職場で自分の意見を「言おうかなあ......。やはりやめておこうかなあ......」、と迷うシチュエーションのときに、多くの日本人は最終的には「言わない」方を選択するのではないでしょうか。
その結果、「やはり気になるな。でも自分が我慢すればいいことだから......」と、自分で自分を納得させることも多いのかもしれません。
私たち日本人は、人と違う意見を言うことは、多かれ少なかれ「反発」の意味を表していると無意識に捉えてしまいます。「和」を乱す人は空気を読めないと思われがちですから、自分はそうなるまいと考えます。だから意見を言えない、言わないのだと思います。
しかし、フロリさんたちと話をしていると、意見の違いというのは、単に「違う」というだけで、そこに反発や優劣の意味は含まれていないのです。
「私はこう思います」と異なる意見を言っても、頷いて穏やかに聞き、それに対して自分の立場からの意見を返してくれます。そういった話し合いの中で、お互いに知らなかったことに気付くことができ、結果的に価値のある会話ができることが多いのです。違いは違い、ただそれだけです。
むしろフランスの教育では、生徒の独創的な発言を重視します。「私も彼と同じ意見です」と言ってニコニコしているだけの人は、「自分の意見がない人」ということであまり評価されません。
フランスは昔から移民を受け入れていて、隣の人が自分とまったく違う文化や感覚を持っていることを、肌感覚で経験しています。「違い」に慣れているのですね。
ただ、日本人には「沈黙は金」というような「美徳」の問題もあると思います。日本人の中にも、思いついたことをとりとめもなく、とりあえず口に出してしてしまう人もいます。その光景を見ると、あまり上品でないと思う人もいるかもしれません。
しかしなんでも口に出してしまうことと、言うべきことを言うこととは、内容に違いがあります。言うべきことを言うのと、思いついたことを何でも言うのでは、「言うことを頭の中で整理しているかどうか」という差があるからです。
「これ、言うべきことだけど、本当に口に出して言っていいのかなあ」という気遣いのできる人であれば、本人の頭の中で一旦整理していることですので、本来は言っても問題のないことなのです。遠慮せずに言うべきことを発言することで、事態が改善することも多いと思います。
私はパスカルさんと話をした後に仕事場にいくと、普段よりも、思ったことを我慢せずに言えている自分に気が付きます。「あ、言っちゃった」と思うことさえあります。
けれど言ったこと自体で何かトラブルになることはこれまでありませんでした。1人で勝手に自意識過剰になってしまい、言えばみんなが耳を傾けてくれるのに、言いたいことを我慢している、ということも実はあるかもしれません。
Avoir le coeur sur la bouche.
心臓を口に持ちなさい
これは、考えていることを率直に口に出すという意味のことわざです。
いつも言いたいことをお腹に溜め込んでいると身体にもよくありません。また、その場では言うのを我慢したものの、あとから不満を爆発させ、一旦決まったことを覆すようなことになると、「そう思っていたならそのときに言えばよかったのに」と、結果的に周囲に迷惑をかけることにもなりかねません。
さらに、本音をなかなか言わない人は、「こう言ってはいるけど、本音は違いそうだなあ。本当はこの人はどう考えているのだろう......」と周囲の人に無駄な気を使わせたりしているかもしれません。
とはいえ、普段から自分の意見を言い慣れていない人が急に意見を言うと、口調が不満っぽくなり、単なる愚痴だと受け取られてしまうこともあります。
たとえば、「私は最初、こう思っていましたが、○○さんの言うことを聞いて、その意見もいいと思いました」というくらいの言い方から始めてみるのがいいかもしれませんね。
自分の意見はあるけれど、表立って言うと波風が立たないか心配な時
「自分の意見はあるけれど、それを言うことで場の空気が乱れたり、自分が悪目立ちしてしまったりしないかな、そのリスクを考えたら別に言わなくてもいいか」。そのように考えてしまう人も多いのではないでしょうか。
多くの日本人は職場で「意見がないから言わない」のではなく「ちょっとした意見はあるけれど言わない」こともあるでしょう。それをフランス式に「意見がある時には言う」ためにはどのようにしたらよいでしょうか。
たとえばこのような言い方はどうでしょう。誰かが意見を言った後に「そのご意見いいですね。私はこう思っていたんですけど、今の〇〇さんの意見を聞いて、それ、とてもいいなと思いました」。
会議など、意見を言い合うときに、誰かが意見を言った後に別の意見を言うだけで、その直前に言った人が「え、今の私の意見では不満ということ?」というように、意見を「優劣」「正誤」で判断しようとする人が中にはいるかもしれません。
その対処法は、自分が本当にいい意見だなというものがあったときに、その意見を肯定しつつ、「ちなみに自分の意見は......」と添えれば、聞いている人は違和感がありませんし、「自分の意見を持った人なのだな」という印象を持たれます。
また、メモを活用するのもいいと思います。自分が考えた意見を「昨日ちょっと考えて書き留めてきたのですが」とメモを見ながら話せば、その直前に意見を出した人も「昨日から考えてきていたんだ」と受け止め、自分の意見に反対しているのかな、という勘繰りもしません。
そのメモを見ながら「3つ考えてきたのですが、2つは先にAさんとBさんが今おっしゃったことと同じですので、残りの1つだけ発表します」と言えば完璧です。
そのように「日本式」で少しずつ周囲に配慮、協調しながら自分の意見を小出しにしてその場を地ならししていけば、数回会議を繰り返した後には、周囲のほうから逆に「〇〇さん、これについてどう思う?」と最初に意見を求められる存在になっていくことでしょう。