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知らないと怖い「糖尿病」の話…日本人が持つべき“危機感”

宮本正章(日本医科大学付属病院再生医療科教授/部長)

2012年09月28日 公開 2022年12月01日 更新

治療法は進歩を遂げている

――本書では、再生治療の一環として「マゴットセラピー」という新しい治療法について書かれています。これはどういったものなのでしょう。

【宮本】マゴットとはハエの幼虫、つまり「ウジ虫」です。マゴットは動物の壊死した組織だけを摂取する性質があり、それを利用した治療法です。

われわれのところに来る患者さんは、いくつかの病院を回って最終的に「大切断しかない」と宣告された方が多い。それらの方々の足には、抗生物質が効かない細菌(多剤耐性菌)がいます。そこで有効なのがマゴットで、人間にとって有害な部分だけをキレイに消化してくれるのです。

――海外では知られた治療法なのですか。

【宮本】これはじつに古くからある治療法で、オーストラリアの先住民であるアボリジニ社会や古代マヤ文明でも行なわれていたものです。近代になって抗生物質が普及したために顧みられなくなったのですが、近年再び注目されている。

というのは、ウジが出す分泌物は「宝の山」と研究者からいわれ、殺菌効果や健康な組織を促進する作用もあることがわかっています。ただ、これもあくまで「患者さんを歩いて帰す」治療の1つであって、すべてではありません。

――新しい治療法が生まれてきていることは、患者さんにとってもいいことですね。

【宮本】ええ。加えて、いま糖尿病治療で大変革が起こっています。ひと昔前は、インスリン注射は最終手段だったのですが、いまではむしろ早期からインスリンを使ったほうが有効であることがわかっています。

それは、われわれが診ている患者さんは感染があるので、当科での治療早期からインスリンを使わざるをえなかった。すると、きちんと管理をすると、半年や1年後にインスリンを使わなくてよくなる人がたくさん出てきたのです。

そのようなこともあっていま、糖尿病専門の先生たちもインスリンの早期使用を行なうようになってきました。明らかにパラダイム・シフトが起こっていて、それを補助する薬も登場している。治療は明らかに進歩しています。

――糖尿病は治るようになった?

【宮本】ただそれには、ちゃんと患者さんに運動療法と食事療法を継続していただけるということが大前提です。

繰り返しますが、糖尿病には早期発見と生活習慣の改善が重要です。そのためには、合併症が進むと恐ろしいことが待ち受けていることを、もっと認識していただく必要があります。

恐怖を植え付けるのはよくないかもしれませんが、そうして動機づけをしてあげないと、なかなか人間の意識というものは変えることができません。患者さん自身の、自分の人生に対する覚悟が必要です。

糖尿病の合併症によって人生が変わった方々を、これまで嫌というほどみてきました。いま40代で脳梗塞や透析になる人も増えています。透析になれば2日に1回は病院に行かねばならず、日常生活が一変してしまいます。

より詳細なことは拙著に記しましたが、これらのことをぜひもっと多くの方に知っていただきたい。そしてこれが、糖尿病の恐ろしさやご自身の健康、ひいては人生・将来を見直す端緒となれば嬉しく思います。

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