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妙にハイテンションに、会話が一方的に…知らず知らずに現れる「あの病気の兆候」

小野寿々子(ライター)、屋代隆(医療監修:自治医科大名誉教授)

2020年01月31日 公開 2024年12月16日 更新

妙にハイテンションに、会話が一方的に…知らず知らずに現れる「あの病気の兆候」

過去の病気、と思われていた梅毒が、近年の日本国内で急増していると報じられている。特に妊婦への感染は胎児への影響もあり心配されている。

コミック『薔薇の迷宮』はそんな梅毒をテーマとした作品である。実話を元に描かれたフィクションではあるが、原作者である小野寿々子氏と漫画家の長浜幸子氏が、医師・屋代隆氏の監修のもとで、梅毒の恐ろしさを描き切っている。

本稿では、同作品内で梅毒に犯された「姉」がどう描写されているのか、梅毒とは何か、そしてなぜ梅毒をテーマにこの作品を作り出したのか、について小野寿々子氏が触れる。

 

10年以上をかけて進行し、心身を蝕んだ病気

幼い頃は人形のようにかわいらしくおとなしい女の子だった。

健やかな家庭で美しく聡明な女性に成長した彼女は、やがて生涯の仕事と伴侶を得て幸せな人生を送っていた。と誰もが思っていた。

だが、十年余の長い歳月をかけて病魔は静かに彼女の体を蝕み、彼女から人生そのものを奪い去った。

梅毒トレポネーマ。それが今、彼女の脳に巣くっているものの正体だ。

最初はほんの小さな違和感だった。妙にテンションが高い。笑い声を響かせ、快活にしゃべり続ける。だが人の話を平気で遮り、発言は一方的で会話が続かない。

私が知っている彼女はそんなタイプではなかった。

社交的とは言えず、どちらかといえば引っ込み思案。穏やかで理知的な女性だったはずだ。

順調にキャリアを積んだせいか…と、それでも好意的に捉えているうちに彼女の変化はどんどん加速していった。

攻撃的な物言いで周囲との摩擦が増え、自分勝手な言動で家族を悩ませ始める。明らかな人格変化が起こっていた。

パソコンに触ったこともない実家の母にエクセルの入門書を、父にはタクシーの無料チケットと称して単なるエコーカードを大量に送ってくるという異常行動。

合わせが逆の浴衣に足袋と草履という姿で現れ、両親や妹に暴言を吐く。
「冷蔵庫に鍵をかけないで!」と書かれた手紙が妹宛に届いた時、周りの人間は確信した。

間違いない。彼女は精神を病んでいる…。だが本人に病気の自覚はなく、家族が病院に連れて行こうとすると激しく抵抗する。

 

医師の診断は統合失調症だったが

手をこまねいているうちに、とうとう決定的な事件が起こった──。

事件の当事者となった彼女に下された医師の診断は統合失調症。もちろん本人に病識はない。それがこの病気の特徴であると医師は告げた。

だが私が何より驚いたのはその姿だった。3年ぶりに見る彼女は人格だけでなく容貌も大きく変わっていた。

腰まで伸びた髪はあちこちで団子状に固まって悪臭を放ち、痩せこけて骨張った腕は見るからに垢じみている。腰を曲げてよろよろと歩く姿はまるで老婆だ。

言動も支離滅裂、幻聴や妄想もひどく、介助なしでは生活できないとの判断で一時は措置入院を覚悟したが、かろうじて任意入院となった。

そこで新たな衝撃が家族を襲う。

入院した病院から告げられた真の病名は「第4期神経梅毒」。脳梅毒とも呼ばれる業病(ごうびょう)である──。

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日本では江戸時代に蔓延

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