建設業界に新卒で入る若者は増えているのに、なぜ人手不足が起きるのか?
2025年02月26日 公開
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「若者の建設業界離れ」について耳にしたことのある方は多いだろう。しかし、実際にデータを見てみると、建設業界に新卒で入社する若者は10年前より増加している。「建設業界で働く人々」について、書籍『建設ビジネス』より解説する。
※本稿は、髙木健次著『建設ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)を一部抜粋・編集したものです。
建設業界で働く人々...意外と女性が多く、新卒が増えている
皆さんの同級生には建設業界関係者が何人いるでしょうか?
建設業就業者数は483万人(※2023年・総務省労働力調査)、全産業で4番目に多いです(就業者全体の7%)。1クラス30人とすると、少なくとも1クラスに2人は建設業界で働く人がいることになります。483万人の建設業就業者の内訳を詳しく見てみましょう。
女性が増え、意外と事務員が多い
男女比で見ると女性は18%。「男社会」のイメージの強い建設業界ですが、5人に1人は女性で、近年、女性就業者が増加しています。女性就業者のうち18%は現場監督や職人などの「現場職」です。職種別で見ると、職人が63%で最も多く、次に多いのは事務職で18%です。施工管理などの技術者が8%、残りは営業職と管理職です。
「現場職」のイメージが強い建設業界ですが、2割弱は内勤と呼ばれる事務職なんですね。建設業界は見た目以上に「事務産業」です。現場では未だにホワイトボード、紙、電話、ファックスでの管理が行われています。
デジタル化が進んでいるのは大手企業や一部の先進企業が中心で、多くの中堅、中小企業の業務は令和の今でも「昭和」のままです。一部のゼネコンや行政機関も未だに「紙」の提出を求めてきます。
また建設業界は「建設業経理検定」と呼ばれる経理資格も存在するほど会計処理が特殊なため、経理などの事務をするにも専門性が求められます(資格が無くても経理業務はできます)。
企業規模別の就業者数を見ると、他の産業と比較して社員数29名以下の中小企業で働く人が66%と多いです。特に法人化されていない個人事業主(中でも、社員ゼロの個人事業主を建設業界では「一人親方」と言います)が多く、全体の17%を占めています。
「トヨタ自動車などの大企業の社員が多い」製造業との違いです。ただこの「中小企業で働く人の比率」「一人親方」は毎年減少傾向にあり、社員数100名以上の企業に就業者がシフトしています。
新卒は増えているが、都市部に集中し、意外と外国人は多くない
年齢構成で見ると65歳以上が17%。6人に1人は65歳以上と他業界より高齢化が進んでいます。10~30代の若年層は26%です。「建設業界に若者が入ってこない」と言われますが、建設業界に新卒で入ってくる若者は年間4万人と、少子化にもかかわらず微増傾向にあります。
2021年から、この65歳以上の比率(高齢化率)は前年比で少しずつ下がり始めています。「頑張って若者を採用して、高齢化を必死に食い止めている」のが実態です。
この年齢構成、高齢化率を地域別に見てみると、直近10年の間に北海道、東北、四国で高齢化が進み、若者が首都圏、東海、近畿に集中しています。これは「東京の大企業が山形の工業高校で採用活動をする」などした結果、若者の都市部集中が進んだためです。
「若者の建設業界離れ」ではなく「地方から若者が出ていった」のです。日本全体の少子化に伴う人口減(出生数から死亡数を引いた自然減)は2023年時点で年間83万人なのに対し、引っ越し(市区町村間の人口の移動、社会移動)は526万人。社会全体に影響が大きいのは「引っ越し」なのです。
なお、建設業就業者は特定の地域に集まる傾向にあります。例えば東京23区内では足立区、江戸川区、練馬区に建設業就業者が多く、開発ラッシュの続く港区、千代田区に少ないなど、区のレベルでも大きな差があります。これは愛知、大阪などの他都市でも同じです。「たくさん建物が建つ町と、大工の多い町がズレている」のです。
「最近の建設現場は外国人ばかりだ」というのもデータで見ると少し異なります。国内建設業界で働く外国人労働者は毎年増加していますが、それでも建設業就業者全体の3%弱しかいません。日本人が97%を占めています。
日本で働く外国人の多くは工場やコンビニを選ぶため、建設業界を選ぶ外国人は外国人就業者全体の6%しかいません。しかも、外国人を受け入れる事業所は東京、神奈川、愛知、静岡など特定地域に集中しています(※2022年・厚労省外国人雇用状況)。
人手不足はなぜ起こる?
建設投資は伸びている一方、建設業就業者は2013年から10年間で16万人減りました。2023年はなんとか就業者数の減少が止まりましたが、建設投資が伸びているため、人手不足の解消には至っていません。
「現場の高齢化が進み、人材が都会に集まっているのに、駅の再開発や半導体工場など、大型プロジェクトが全国でどんどん進んでいる」のが建設業界の人手不足の背景にあります。
地方に目を向けると、「都市部の会社が離島まで出張して改修工事を行う」など、「遠方から職人に出張してもらわないと工事ができない現象」が起きています。地方で災害が起こると、この職人不足はさらに深刻になります。被災者の不安に付け込んだ「災害後のリフォーム詐欺」なども横行しています。
この記事をお読みの皆さんだけでなく、皆さんの高齢のご両親のもとにも、悪質業者が訪問してくるかもしれません。そしてその手口は毎年巧妙化しています。警視庁、消費者庁、損害保険の業界団体などが最新の事例をもとに注意喚起をしていますので、そちらもご確認ください。
リフォーム会社によれば、悪質リフォーム業者は目に見えにくい「屋根」「床下」の工事を提案することが多いそうです。わざと屋根を壊す業者もいます。
【髙木健次(たかぎ・けんじ)】
クラフトバンク総研所長/認定事業再生士(CTP)。1985年生まれ。京都大学在学中に塗装業の家業の倒産を経験。その後、事業再生ファンドのファンドマネージャーとして計12年、建設・製造業、東日本大震災の被害を受けた企業などの再生に従事。その後、内装工事会社に端を発するスタートアップであるクラフトバンク株式会社に入社。2019年、建設会社の経営者向けに経営に役立つデータ、事例などを発信する民間研究所兼オウンドメディア「クラフトバンク総研」を立ち上げ、所長に就任。テレビの報道番組の監修・解説、メディアへの寄稿、業界団体等での講演、建設会社のコンサルティングなどに従事。
【クラフトバンク総研】https://corp.craft-bank.com/cb-souken
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