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生き方

「父の教えにも従わない」車いすテニス小田凱人が幼少期から貫いたプレースタイル

小田凱人(車いすテニス選手)

2025年03月24日 公開

「父の教えにも従わない」車いすテニス小田凱人が幼少期から貫いたプレースタイル

15歳でのプロ宣言からわずか2年で車いすテニスの四大大会で優勝。パリ・パラリンピックでも金メダルを獲得し、世界ランキング1位の座に輝いた車いすテニス界のニューヒーロー、小田凱人(おだ・ときと)選手。幼少期に車いすテニスに出会ってから、練習に打ち込み、自分のプレースタイルを貫いてきたそうです。書籍『夢を持つ、夢中になる、あとは かなえるだけ 車いすテニス小田凱人』よりエピソードを紹介します。

※本稿は、小田凱人監修,秋山英宏著『夢を持つ、夢中になる、あとは かなえるだけ 車いすテニス小田凱人(Gakken)を一部抜粋・編集したものです。

 

初めての試合は完敗

岐阜車いすテニスクラブでの練習に通うには、車で片道30分ほどかかります。送りむかえは、おもにお母さんが担当で、ときどきお父さんもしてくれました。

両親は凱人をクラブに送りとどけると、そのまま練習が終わるまで待っていてくれました。車に乗っている間も、話題はテニスのことばかり。それは凱人にとっても両親にとっても楽しい時間でした。

一球でも多くボールを打ちたい凱人は、クラブでの練習のほかに、近くの公園でも練習しました。また、中学生になると、テニスコートを借りて練習することもありました。

初めて試合に出たのは凱人が10歳のころです。一所けん命に練習してきたので、凱人も、お父さんも、「いける」と思っていましたが、結果は0―6の完敗でした。くやしさを味わった凱人は、さらに練習に力を入れるようになりました。

試合であちこち遠せいするようになると、それが家族旅行の代わりになりました。お父さんは、たくさんしゅ味を持っていましたから、それまで、小田家のレジャーといえば、お父さんが好きなことを家族みんなで楽しむことでした。ところが、凱人がテニスの練習や試合でいそがしくなると、家族はテニスを中心に行動するようになっていきました。

 

今は勝てなくても、いいと思ったことをやる

小田凱人

お父さんはふだんから、口ぐせのように「お前ならできる」といって、はげましてくれました。ただ、試合で負けたときなどに、「なんで、できないのか」ときびしい言葉をかけられることもありました。凱人は、それをすなおに聞いていました。

(きびしくいわれるのは、期待してくれているからだ。)

お父さんが、自分のことを思っていってくれていることが、凱人にはわかりました。だから、きびしくいわれても、受け入れることができました。

ただ、お父さんのアドバイスを聞いても、すなおにしたがわないこともありました。凱人は、自分のやりたいやり方で、テニスをしていました。そうして、勝ったり負けたりが続いていました。

そのようすを見て、お父さんは(何をいっても、この子は聞かないな)と気がつきました。そして、凱人 に、こういいました。

「好きにやればいい。勝ち負けなんか関係なく。自分が好きなことをやって、勝てれば、それでいいんじゃないか。」

がん固に自分のやり方かたをつらぬく凱人に、お父さんも根負けしたのです。凱人は、お母さんには、自分の気持ちを明かしました。

「次のことを考えて、チャレンジしている部分があるんだよ。練習ではできない、試合の中でやらないとわからないことだから、試合でチャレンジしているんだ。」

今は勝ったり負けたりでも、それは大事ではない。将来、もっと強くなるためには、今、こういうプレーを試合でやってみる必要がある――そこまではっきりとした形ではありませんでしたが、凱人の頭にあったのは、そんな考えでした。

凱人は、自分に必要だと思うことをやり続けました。それは今でも変わりません。どんな試合でも、こうと決めたら、失敗しても、そのプレーをやり続けます。そんな凱人を見て、お父さんは思うのです。

「こんな大きな大会で、チャレンジしている。あいつのやりたいスタイルをつらぬいている。すごくいいことだな。」

今の凱人のテニスは超こうげきがたです。得意の強いサーブとストロークで、ぐいぐいおしていきます。ライジングショットといって、バウンドした直後のボールを打つこともあります。そうして、まるでたっ球のような、すばやいこうげきをしかけるのです。

さらに、後ろで打ち合うだけでなく、積極的にネットにつめて、ボレー(ノーバウンドで打つ、こうげき的なショット)で決める場面も多いのです。

(これが自分のやり方なんだ。)

一度決めたら、だれがなんといおうとやり続ける。そんな気持ちで、みがきあげた、凱人の「スタイル」です。

 

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