仮想空間とリアルが融合した時代…「ハッカー」の本当の恐ろしさ
2012年10月19日 公開 2024年12月16日 更新
電子メール、フェイスブック、ツイッタ-、スマートフォン …… コミュニケーション革命の裏側で、個人情報のダダ洩れが始まっている。覗かれ、お金が引き出されるだけではすまない。
会社や政府の情報が盗まれ、巨額な訴訟騒動や社会問題にまで発展している。ある国の原子力施設が運転の停止に追い込まれたことも。
さらに怖いことは、いまもハッキングは起きていて、いつ大きな事件に発展するか分からないことだ。私たちのパソコンがいつの間にか、こうした犯罪の「手先」に使われているとしたら…。
※本稿は、岡嶋裕史 著『ハッカーの手口』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
自分には関係ないと思っている人がほとんど
ハッカーに情報を見られることは、自分の人生を見られることです。
ハッカーに情報を盗まれることは、自分の人生を盗まれることです。
PHP新書『ハッカーの手口』は、ハッカーが使うあれやこれやの手口について説明する本です。
たとえば本のオビにそんなことが書いてあったとして、どのくらいの方に興味を持っていただけるものでしょうか。
少なくとも、「おお、ここんとこ毎日『アノニマス』(超有名なハッカー集団)から攻撃されて困ってたんだ。これは買いだな」とおっしゃる方は多くないと思います。というより、そういう方は本を読むより早く警察に行ったほうがいいです。
それは極端にしても、「ハッカー怖いなあ」とか、「個人情報漏洩やばいなあ」と何となくは思いつつも、やはり「自分には関係ないや」と考えている方がほとんどだと思います。
手間暇かけて盗み出すほどの秘密の情報なんて持っていないし、個人情報が漏洩してもせいぜい腹回りのサイズがばれたら恥ずかしいくらいだし、出張で新幹線代講求したけど、ほんとうは高速バスを使って差額を懐に入れたのだって、「まあクビにはならないだろ」くらいですよね(最近はそうでもないので、やらないほうがいいと思います)。実際、普通に生活していて、そんなに後ろ暗い情報を持っているものではありません。
「でも……」、と続けなければならないのが仕事なので、つらいところです。
セキュリティの仕事というのは安心して暮らしている人に、「いやいやいや、こんな危険なことがあるんですよ」と吹いて回る側面があるので、非常に心苦しいです。下手をすると詐欺と間違われます。「危険を煽っておいて何を売りつけたいんだ」という話です。
"仮想空間"と"現実"の融合
現状でやはりハッカーは怖いです。
それは、コンピュータシステムが形成する仮想空間の、現実への侵食が加速度的に高まっているからです。
少し前まで、仮想空間と現実は隔てられていて、オタク(私です)は仮想空間へ引きこもって(私です)出てこなくなるのではないかと思われていました。
でも、仮想空間を構築する技術が高度化して普及してみると、実際の様相はちょっと違っていました。仮想空間と現実は隔てられるのではなく、融合する方向にありました。
自分はコンピュータもそんなに触らないし、ゲームもやらないし、仮想空間なんて見たこともないとおっしゃる方も、けっこうどっぷり仮想空間に浸かっています。
たとえば、交通系ICカードを使って電車やバスに乗れば、どこからどこまで移動したのか仮想空間に履歴が残ります。決済情報も保存され、チップに保存された残額が少なくなればクレジットカードから引き落としが発生します。
クレジット会社からは銀行に請求があるでしょうが、その銀行口座には会社からの給料がオンラインで振り込まれています。こうした手順は物理的な手続きをまったく介していません。すべてが仮想空間内で行われています。
これからは、コンビニで買い物をすれば、商品に添付されたRFIDタグがトレースされ、買い物かごにどんな商品が入っているのか、どの経路を通って陳列棚の間を歩いたのか、どの順番で買いにいったのかが記録されるようになります。
おサイフケータイで料金を支払えば、それは自分の属性情報と結びついて、「この人はこんな人」とプロファイリングされていきます。継続的にそのコンビニを使うようであれば、プロファイル情報はどんどん精密になっていくでしょう。
季節や天気によって買い物の嗜好が変わったり、羽振りの善し悪しの予測までやってくれるかもしれません。自分より、コンビニのPOSのほうが自分の将来的な可処分所得を正確に知っているかもしれません。
オンライン店舗の通販サービスは便利です。重いものを手元にまで届けてくれます。昔買った本さえ永遠に覚えていてくれるので、同じ本を購入しようとすると警告まで発してくれます。好きな傾向の書籍が新しく発売されるとお知らせのメールがもらえて、雑誌であれば定期購読、日用品や買い回り品であれば定期購入サービスが受けられます。
スマートフォンを持って散歩をすれば、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)が忠実に道のりをトレースしてくれますし、チェックインサービスを使っていれば、どのお店に入ったかも記憶します。
記念に写真を撮れば、撮影日時や撮影データはもちろん、撮影地点の緯度・経度、海抜まで算出して写真データに埋め込みます。