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社会

仮想空間とリアルが融合した時代…「ハッカー」の本当の恐ろしさ

岡嶋裕史(関東学院大学准教授)

2012年10月19日 公開 2022年12月22日 更新

岡嶋裕史

いまや仮想空間は避けられない

さらに、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使えば友だちまで探してくれます。自分の属性データを登録しておけば、趣味嗜好の合う人や、何年も会っていない知り合いを、「お友だちではないですか?」と提案してくれます。一度友だちとして指定すると、その友だちがネットにつぶやいた情報を逐一追いかけることができるようになります。

今どこにいるのか、何をしているのか、起きているのか、寝ているのか、仕事をしているのか、さぼっているのか、いじめているのか、いじめられているのか、顔を合わせているわけではないのに、なんだかやたらとその人のことに詳しくなれます。

写真付きで今日のランチまで紹介してくれる人もいます。そこまでされると、なんだか自分も「写真でも投稿しないといけないかな?」という気分になってきますし、自分が何もしなくても友だちのブログのなかに自分の行動が書かれていたり、写真に写ったりしていることがあります。

ライフログ、自分の人生を保存しようよ、という試みが流行ったことがありました。そんなことができるくらい情報機器の数や種類、記憶容量が大きくなっているわけですが、わざわざソフトウエアを買ったりサービス登録して自分でライフログを作らなくても、社会全体でライフログを作ってくれています。

たとえパソコン音痴でも、まだスマホに機種変更していなくても、仮想空間と無縁でいることは困難です。戸籍だって、税金の督促だってオンラインで管理されているのですから、日本で暮らしている以上は見えない仮想空間に首までどっぷり浸かっていると言っていいでしょう。

ハッカーに情報を見られることは、自分の人生を見られることです。
ハッカーに情報を盗まれることは、自分の人生を盗まれることです。

人や人の行動がデジタル情報に変換されて仮想空間に蓄積されている状況下では、これらのうそっぽい警句が真実になります。デジタル情報の海を思いのままに遊弋〈ゆうよく〉するハッカーは、まるっとまとめて私たちの情報を盗みます。

それで何が起こるか? ふつうは何も起こりません。

クレジットカードの番号やパスワードを盗まれて、お金を引き出されたり、自分名義でシステムを使われたりなど、あるにはあるのですが、どちらかと言えば小口の被害です。

そんなことをした時点で、ハッキングの被害にあったことが発覚して対策されてしまいますし、ハッカーにとってはあまりうまみがありません。

ほんとうに怖いのは、表面上なにも起こらないことです。

お金も使われません。自分名義でスパムメールも送られません。でも、ハッカーはあらゆる情報を掌握し、必要であればいつでも私たちのパソコンを使える状態を維持しています。会社の情報、官庁の情報、政府の情報が少しずつ、でも確実にハッカーの手に落ちていきます。

そうした状態が続けば、いずれは自分の首根っこだけでなく、国家の首根っこまでハッカーにおさえられてしまうかもしれません。

私たちは、リアルと仮想が融合した、そうした時代を生きています。

 

*     *     *

この本は、ハッカーが使いそうな手口をいくつかまとめて紹介したものです。順番に読んでいただいたほうがわかりやすいと思いますが、ご興味のあるところをぱらぱら拾い読みしていただくのでもいいと思います。

手口を知っていると対処もできるようになっていくので、少しずつ「ハッカーの手口」に詳しくなっていただいて、ハッカーが仕事をしにくい世の中になっていけばいいなあと思います。

たとえ個人的にはいままで何の被害にもあっていなくて、今後もたぶんそうだろうと思っても、ハッカーの跳梁跋扈を許すと、国が相当損をします。

国が損をすると、その国の国民全体もめぐりめぐって損をするので、やはりいくばくかは自分に関係する話です。

ペットボトルのキャップが出てきたら、単に捨てるのではなくてリサイクルに回してみようかなくらいの気持ちで、きんきんに頑張る必要はなく、気がついたときにハッカーが困るような行動をとっていただくだけで、だいぶ世の中が変わると思います。

 

 

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